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Say You Love Me

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暫しの休暇を英国で過ごした日本がいるのは空港。これらか乗る飛行機が、英国へ向かうならどんなに嬉しいだろう。けれど実際問題、そうは言ってられない。仕事は、どれだけ片付けても、一日と穴が開けば溜まるもので。帰ってから仕事場のデスクを、できることなら永遠に見たくない。はぁ、ため息を漏らしていると、なにか遣り残したことないか? と訊ねる声。

「遣り残したこと……あっても次の楽しみに取っておきますよ」
「ないのか? じゃぁ、買い残したものは?」
「それは、はい。大丈夫でしょう」
「忘れ物は?」
「うーん。最後によぉく確認しましたから。けど、何かあったら、保管をよろしくお願いしますね」
「俺も日本に行きたい」

 隣に座る、金髪の青年がぶうと文句を言う。

「なんでこんな距離があるかな。もっと近けりゃいいのに」
「そうですねぇ」
「どうして住む場所が違うんだろうとか、どうして言葉が違うんだろうとか、どうして一緒に住めないんだろうとか、どうして帰る場所が違うんだろうとか、思わないか」

 こぼす文句は、若者らしいそれで。きっと怒るだろうから言わないけれど、可愛いものだ。

「なに笑ってるんだよ。おかしなこと言ってるか?」

 日本はそう思わないのか?
 暗に意味する言葉も透けて見えるほどにわかりやすい不満。
 それはやはり、可愛らしい。

「いいえ。私もおなじことを思っていますよ」
「それだけ?」

 横並びに座って、片手に搭乗券とパスポートを握った私の、反対側の手はイギリスのそれに握りこまれている。彼の質問に、なんと答えようか。

「どうして手を繋いだまま街を歩けないのだろうとか、どうして夜は明けるんだろうとか、どうしてあなたと出会ったのだろう、とか。思います」
「出会うことに理由は要らない。出会うべくして出会うんだ」
「えぇ、そうかもしれませんね」

 ゆるゆると時間が流れていく。会話のスピードは遅くなかったが、間をたっぷりとったものだったから、気がつけば5分、10分と経っている。重なった手の温もりから、過ごした同じ時間を回想して、楽しかったこと、交わした言葉、小さなケンカまでも愛おしく感じていた。

 そろそろ時間だ。行かなければ。そう思うと、同じことに気がついたようで、名前を呼ばれた。留守番を頼まれた、小さな子どもが母との別れを惜しむような声で。それに笑みを返す。

「帰る場所が、違うと言いましたね。イギリスさん」
「うん」
「同じだと、私は思っています」
「うん?」
「私はどこからでも、イギリスさんに帰るつもりでいます。次に出会う場所が例えば地獄でも、そこにあなたがいれば、私は帰ってきたと、思います」
「そ、か」

 言った言葉を、かみしめるように時間をとって、それからはにかみ笑う。



 ねぇ、愛おしくてしかたがない――




























......END.
作品名:Say You Love Me 作家名:ゆなこ