逆行物語 裏六部 ~それぞれの想い~
ジェルヴァージオ~ランツェナーヴェの行く末~
私がその夢を得たのは、ユルゲンシュミットへの侵攻を計画していた時であった。ランツェナーヴェのツェントになりたいと考えるレオンツィオをどう味方に引き込むか、考えている真っ最中だった。
レオンツィオがツェント・ランツェナーヴェを目指すのも、私がツェント・ユルゲンシュミットを目指すのも、ランツェナーヴェの為であり、目的を同じとする為、話し合う余地があると考えを巡らせていた。
そんな時に得た夢だった。
メスティオノーラ様の遣いと名乗る者は、私の夢に現れ、ツェント・ランツェナーヴェとして、ユルゲンシュミットに依存せず、この国を守る術を与えてくれた。
「この世界にいる神は、ユルゲンシュミットの神だけではありません。しかしユルゲンシュミットの神よりも低位で魔力量も人より少し多い程度です。ユルゲンシュミットの神により、半神化した元・人間よりも少ない。故にこそ、彼等は地に降り立つ制限が少ない。神力を授ける際に、人に掛かる負担は少ない…。銀の布は神力を授かった人間によって作られました。ユルゲンシュミットの神の取り決めによる不利を受けぬ様に。」
銀の布が人の魔術を受け付けないのは、それが理由だった。その布に被されれば、魔力が隠されるのも。
最も神が見極め、銀の布に狙いを定めれば、一瞬で消える。また、ユルゲンシュミットの神の魔力が充ちる場に置かれ続ければ、その魔力に対する抵抗力も小さくなり、やがてなくなってしまうと…。
「このランツェナーヴェを守る神では、礎を立てた処でユルゲンシュミットの様に魔力に満ちる土地は出来ません。だからこそ、人による助力が可能です。土地を富ます方法を平民達が編み出せたのは、その為です。ですから魔力を持つ者ならばもっと強い助力が出来ます。
人の魔力が強くなればなるほど、ランツェナーヴェは発展するでしょう。その為にシュタープがなくとも魔力を扱え、且つ魔力量や属性を増やす圧縮方法を伝授します。
それを行えば、この地を守る神の名を知れましょう。神による一方的な発信ではなく、人と神で交信を可能にするのです。
ユルゲンシュミットに頼るのではなく、ランツェナーヴェ独自の遣り方で国を魔力で統治する事が可能になります。」
そうして教えられた魔力圧縮は5段階魔力圧縮と呼ばれる物だ。まず、魔力を箱に積める様に身体に押し込め、次に薬草を煮詰める様に嵩を減らしを、それを布を畳む様に、小さく折り畳み、更にそれを踏み潰す。…最後にそれを箱の中から出す。
人によっては精神力と魔力の関係で全て出来ない場合がある為、途中経過を省くのはありだと言う。だが最後の箱から出す事だけは省いてはならない。試して見れば解った。身体に当てはめた箱から魔力の塊を出した途端、魔力を体の外に出せたのだ。まるで消費したかの様な感覚に陥ったが、だとすれば全魔力消費によって、倦怠感を強く感じる筈だがそれがない。試しに箱に戻せばまた魔力は一切、使用せぬままの状態だ。
…成る程な…。
私はカラクリに気付いた。箱の外に出すと言う事は体外に出す事に不便しないと言う事だ。そして体内の魔力がなくなれば、身体は自ずと魔力を産もうとするだろう。ならばシュタープや魔術具なしに魔術を発動させるのは難しい訳ではない。
更に均一とは行かないが、魔力のある土地や大気は全属性を薄く纏っている。そんな外の魔力に触れれば、自ずと己の魔力は染められるであろう…。
魔術具も祝詞もシュタープも無しに魔術を扱えるなら、ユルゲンシュミットに頼る必要は無い。
私はユルゲンシュミットに拘る事を辞めた。
そして約20年経て、私はランツェナーヴェに君臨し続けた。貴族による平民支配が問題なく進み、レオンツィオは平民と直接対話をする役職について、決して搾取するだけの関係は築いていない。
ランツェナーヴェを守る神は平民と共に歩く事を望んでいる事もあり、我が国は平民を支配しながらも、共に歩む国となっていた。
続く
作品名:逆行物語 裏六部 ~それぞれの想い~ 作家名:rakq72747