悲しみの溶けた瞳
ガラス球。美しい、触ったら、曇ってしまいそうな。
しかしガラスのように重みはないのだ。どこまでも軽く、しかし中にはおとうとのみたあらゆるものが詰まっているのだ。
すべてが混ざり合った青。澱みを含むはずなのに、濁ってしまうことはない。
おとうとの瞳。
カーテンの隙間からぼんやりと光が漏れる。体を縮こめたまま夜をすごした俺は変わらずおとうとの寝顔を見つめ続ける。唇が少し開いて、息を少し深く吸って、吐いた。それを合図のようにして、俺はおとうとに手を伸ばした。
柔らかな頬の、それまた柔らかな産毛を、触れるか触れないかの距離で、辿る。
いまだまろやかな眠りの中に半分浸かったおとうとは、んん、と声を漏らした。
もみあげを親指でくすぐり、耳殻を撫でると、まぶたが、何度か開閉を繰り返しながら持ち上げられた。
にいさん?なんだ、あさから、くすぐったい…
答えずに下まつげの生え際をなぞると、す、と息を吸う音が聞こえた。俺は体を起こし、おとうとに覆いかぶさる。
そのまま、左手親指で眼球に触れた。びくりと肩を竦ませ、まぶたが、ききき、と痙攣するように動く。まつげが指をくすぐる。
いた、いたい、にいさん
おとうとの左足の爪先が乱れたシーツを掬い上げる。布と膝のこすれる感触。首を振って逃れようとするので空いた右手で頬を掴んだ。
白目、瞳、白目、指を滑らせる。指を動かすたびにおとうとがうめいた。瞳のふちをぐるりとめぐらせる。俺のおとうとの瞳。涙が滲んできた。俺はそれを舐め取るために指を離した。
おとうとは乾燥し充血してしまった目を痛そうにしばたたかせる。はあ、と湿らせた息を目に吹きかけるときゅっと閉じてしまった。
隠さないでくれよ、なあ。(たすけてくれよ、ヴェスト、俺を。)
我ながら酷い声でつぶやくとおとうとの動きが止んだ。目がゆっくりと開かれる。再び眼球に触れたが、おとうとはまぶたを動かさなかった。
瞳が、俺の指の下へ動く。頬を押さえつけていた俺の右手に、おとうとの手が重ねられた。
虹彩は俺の指を避けずにじっととどまる。きっと俺は吸い込まれるのだろう。この青に。
涙が零れ落ちる。指を伝いおとうとの瞳に溶ける。悲しみが。その無数に走る血管を伝って。
おとうとは、すべて知ったように薄く笑うのだ。それから呼ぶのだ、俺の名を。
しらない、俺は何もしらないよ、にいさん。プロイセン。
そしておとうとは目を閉じる。目のふちから涙がひとすじ。
そうして俺は初めて弟の唇にキスをするのだ。
※※※
プロイセンは躁鬱なんじゃねえかと言う疑惑。そして弟様の美しさを書こうとして撃沈した。むりどいつむり聖域すぎ
入会しといて何も書かないのはなんだなとおもったのであります よって即興であります どいちゅの眼球をさわりまくるぷが書きたかっただけであります
こんどはもっとちゃんと考えて書こう…