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おもいはな

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「部室棟の裏に花壇があるの知ってる?」

俺が4時間目って何やったっけと思い出しながら書いている日誌のすみっこに及川の顔っぽいらくがきをしながら松川が急にそんなことを言い出した。

「知らねぇ、そんなのあったっけ」
「あるらしいよ、文化部の方だけど」
「あ~行かねぇなあっちは」
「結構離れてるしね」
「んで~花壇が?どうした…?」

今日の欠席者と遅刻したやつの名前を思い出すのに気を取られて話半分で聞いていると、松川は少し口を尖らせた。鈴木は早退したんだっけか。

「そこにバラが咲いてるんだけど、その中の一際大きなバラが、人の恋を栄養にして咲いてるんだって」
「うっわ、なに!恋バナ?」
「ははっカメムシ噛み潰したみたいな顔」
「どんな顔だよ」
「お前がパクチー食べた時の顔」
「パクチーはカメムシ味ってことかよ」
「カメムシは食べたことないからなぁ」
「あったらこえぇよ!」

話がそれた。

松川と話しているとコロコロと会話が進むからよく脱線してしまう。

「なに、また女子の噂話でも聞いた?」

松川は一見取っ付きにくそうに見えるけど慣れるとなんてことはない。顔は怖いけど基本的に優しいやつだ。
おまけに雰囲気が大人っぽくて聞き上手だから松川の顔に慣れたクラスの女子とはよく話をしている。
噂話やら相談やら色々聞いているらしい。物好きなやつだ。実は俺よりもゴシップに詳かったりする。占いやおまじないの類も男子バレー部内では矢巾の次に詳しい。

「そう『辛い恋を忘れさせてくれる、赤い薔薇』だって。」
「うわ、ホラーじゃん」
「そう?」
「人の心を食べるんだろ?こわっ」
「俺は、切ないラブストーリーだと思うけど」
「うわ、でたよ、ロマンチスト」
「叶わない恋なら、いっそ出会わなければ良かったってやつだろ。わかるよ。自分じゃどうにもならなくなって、藁にもすがる思いってやつ。この場合はバラの花。」
「え~なんか切な…んで重い。松川の愛おも…」
「そう、重いんだよ俺の愛は」

松川の八の字の眉が、さらに垂れ下がった気がした。


数週間後、文化部の部室棟付近で松川を見たと及川から聞いた。


数ヶ月後、松川に彼女ができた。


松川は、辛くて辛くて、いっそ忘れたいと思うほどの恋をしていたのだろうか。
今となってはわからない、なんせ、忘れているんだろうから。
そもそも恋バナなんて柄じゃない俺はそんな会話をしたことなんてなかったかのように相変わらずバレーをして、適当に勉強して、及川を弄り遊んで過ごしている。

ただひとつ、変わったことといえば月曜日の放課後に松川が俺のクラスを尋ねてくることがなくなったことだろうか。

あいつがいないと随分静かだ。塩辛い水滴が日誌の文字を滲ませている。ちくしょう、書き直さなきゃいけないじゃないか。どうせ書き直すなら、ぐしゃぐしゃに濡れたって構わないか。

松川の愛を栄養にした薔薇は赤く赤く大きく、ちょっと頭を擡げて咲いているかもしれない。あいつの愛は重いらしいから。

俺は、きっと、部室棟裏の薔薇を一度も見ることはないだろう。
作品名:おもいはな 作家名:sakuma