『真夏日・カナのスクーター・廃工場の灰羽達』 【灰羽連盟】
カナはトタン張りの天井を見上げてしばし考えた。ものを大事に、長持ちさせるのが灰羽の役割。自分が巣立ったあと、このスクーターを乗り継いでくれる灰羽がいるかもしれない。その灰羽が巣立ったら、さらにその次へと——
「分かった。こっちこそお願いするよ」
「やっほい!」
アキは子供のように喜んだ。
「その時はあたしも整備、見に来ていいかな」
「もちろん!」
灰羽の少年達は喜んだ。
◆ ◆ ◆
茜だった空が紺色に染まる頃、作業は完了した。カナが懐中時計を取り出すと、六時一八分を刻んでいた。作業時間は一時間弱と言ったところか。
アキがスクーターにまたがってペダルを蹴りつけると、即座にエンジンが息を吹き返した。カナ達はわあっと歓声を上げる。
「いっちょあがりだ!」
「やった! ありがとう!」
破顔一笑、カナはアキに抱きついた。いつぞや、時計屋の親方からオールドホームの時計塔の修理を任された時のように嬉しかったのだ。
「おおう……」
少年達二人が神妙な面持ちでそれを見つめている。
「ええと、カナ?」
アキに言われてカナは我に帰った。目の前には当惑しているアキの顔。
「わっ! ごめん!」
カナは後ずさった。まさか感情が爆発して男の子に抱きついてしまうなんて! カナはうつむく。恥ずかしさのあまり、両耳が熱くなってくるのを感じた。
ちょうどその時——
「どう? 調子は。ご飯ができたって呼びに来たんだけど。……どうしたの?」
ミドリがカナ達を呼びに来た。カナにとっては助けに船か。
「えっ……いや、なんでもない。なんでもないよ? あはは」
カナはごまかすように手をぶんぶんと振って愛想笑いした。ミドリは首をかしげたが、それ以上問い詰められはしなかった。
「俺ら後片付けするから、カナは先に行ってて」
アキ達三人も何事もなかったかのように振る舞った。
「……? なんかあったの?」
きょとんとするミドリ。カナはごまかし笑いをする。
「いやあ。うん。ちょうどよかった。今、修理が終わったとこだったんだ。じゃ、じゃあ行くね!」
カナは振り向くと、ややぎこちなくアキ達に手を振った。彼らも手を振り返す。
そしてカナとミドリはガレージをあとにした。
作品名:『真夏日・カナのスクーター・廃工場の灰羽達』 【灰羽連盟】 作家名:大気杜弥