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『真夏日・カナのスクーター・廃工場の灰羽達』 【灰羽連盟】

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(四)



「なんだよー。あいつら、あたしを待っててくれないのかよー」
 カナは悪態をつきながらスクーターを走らせる。
(避けられてるとか、嫌われてるとか、ないよな。まさかな)
 さっきゲストルームで悪ふざけをして怯えさせていたのは棚に上げて。
「そりゃあラッカにはよく懐いてるけどさ」
 レキがラッカに対してそうであったように、ラッカはよき灰羽として、親身にマヒルやマシロの面倒をみている。
(あたしはラッカとは違うし、あたしなりにちび助を可愛がってるつもりなんだけどね)
「どら、追いかけてやるか。勝負は下り坂にかかるまで! 坂を下り始めたらちょっと追いつけないかもな!」
 カナはスクーターのスロットルを開けた。エンジンが唸りを上げ、加速する。未舗装の道をガタゴトガタゴトと揺れながら、カナのスクーターはかっ飛んでいった。

◆ ◆ ◆

 空気を切ることしばらくして、カナは双子の姿を発見した。“オールドホーム1号”という名のママチャリに二人乗りをしている。
 一方、迫り来るスクーターに気付いたのは、自転車のリアキャリアに乗ってるマヒル。『うわ、カナだー!』とでも言ってるのだろう。心持ち、自転車の速度が上がった。
「へへっ、逃げようったってそうはいかないよっと!」
 カナはさらにスロットルを開けたが、このスクーターでは限界が近いようだ。苦しそうに唸るばかりで速度は伸びない。
「こらー! 待てー!」
 そうしてカナは自転車に追いついた。さらに抜き去って、ちょっと走ったところでスクーターを停めた。
「よ!」
 カナは軽く手を挙げた。
 マシロも自転車を停める。口を一文字にしてカナを睨む。
「ふん、だ。こっちは自転車だもん。スクーターに負けたからって悔しくないもんねーだ」
 息せき切って辛そうな表情のマシロは、それでも意地を張ってみせた。マヒルも架台から降りた。ふくれっ面で、たいそう機嫌が悪そうだ。
(あ、あれ?)
 カナは尻込みした。予想していた反応とはかけ離れていたから。
「ちょっと!」
 鋭いマヒルの語気。
「せっかく和やかに走ってたのに、カナが追っかけてくるせいで台無しよ。さっきなんか転びそうになったんだから!」
 カナは双方から睨まれてしまった。沈黙が周囲を支配する。
(え? 本気で怒ってる?)
 カナにとっては予想外だった。ちょっとしたじゃれ合いのつもりだった。だが当の二人はそうは思わず、カナが意地悪を仕掛けてきたと捉えているようだ。仕方ないとばかりにカナは折れた。
「ああもう。分かったよ。追いかけたりして悪かった」
「むー……」
 マヒル達はそろって腕を組んだまま、厳しい表情を崩そうとしない。
「あーの……さ。一緒に行かない?」
 柔和な表情を浮かべてカナは語りかける。彼女にとっては苦手な雰囲気が続く。しばらくしてマヒル達は互いの顔を見合わせた。
「オーケー? 許す?」マヒルがマシロに訊く。
「ん。オーケー」
「決まりだね!」
 マヒルとマシロはうなずき合うと表情を緩めた。
「じゃあいいよカナ。一緒に行こう。その代わり……ねえ、“かるちぇ”でマヒル達にカフェオレごちそうしてよ」
「僕はアイスカフェラテ!」
 申し合わせたかのような双子の報復。
「んな?! かるちぇって、マヒルが手伝ってる店じゃん。ちゃっかりしてんなー」
 カナは軽く抗議の声を上げる。
「いらっしゃいませー。……あはっ、いいじゃない。たまには街の中でお話ししよう?」
 もしかして、最初からこれを狙っていたのか?
 なんというか、してやられたなーと思いつつも、天真爛漫《てんしんらんまん》に笑うさまがどこかクウを彷彿とさせ、カナは抗えない。
「分かったよ。んじゃあ、これから寄っていくか!」
「やったー! カナのおごりぃ!」
 マシロが万歳する。
「こら、飲み物だけだからな! ……ったく」
 やれやれという顔で、カナはスクーターにまたがる。そしてマヒル達が自転車をこぎ出すのを待ってから横並びになると、街を目指すのだった。