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失言

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「隣りを歩くな」

忌々しそうに吐き捨てる声。それはタイガの左隣りから聞こえた。怪訝な顔で声を発したであろうセリオスを伺った。眉間に皺を寄せ、見るからに不機嫌ですというオーラが見える。普段セリオスは無表情、もしくは人を小馬鹿にしたような笑みしか見せないから、ある意味貴重な表情と言えるだろう。
しかし、最初は他愛も無い話をしながら目的の教室に向かって歩いていただけ。タイガにしてみれば、突然そのような態度をとられる理由も分からないのだ。これはもう、喧嘩を売られているとしか思えない。
「なんや!?喧嘩売っとんのんか」
「そんなことは言っていない。ただ、隣りを歩くなと言っているだけだ」
「それが売っとるつうねん! 同し場所に向っとんのに、何でわざわざ前や後ろ歩かなあかんねんな!?」
関西弁で捲し立てるタイガにセリオスは苦虫を噛潰したような顔になる。二人は廊下の真ん中で立ち止まり、睨み合った。バチバチと散る火花が見えそうだ。
緊張の高まった状態で、互いに口を開かぬまま数分の時が過ぎる。その間、誰もこの廊下を通ろうとしない。さすが、魔法使い養成所といったところか。不穏な気配に敏感らしい。
そうして問題が解決せぬままに、明るいチャイムが鳴り響いた。それと同時に、二人はハッとした表情を浮かべ廊下を走り出した。
「お前さんがさっさと理由言わんから、遅刻してまうやないか!」
「ふん。 知ったことか」
 本鈴がなる前になんとか教室に辿り着こうと、言い合いしながらも二人は全力疾走だ。次の角を曲れば教室が見える……というところで、ドンッと誰かにぶつかった。スピードが出ていたために相手を弾き飛ばし、自分達も尻餅をつく。
「アタタ……」
「っ……すまない」
「イター……」
 聞き覚えのある声に二人が顔を上げるとクラスメートのユウが立ち上がろうとしていた。ダメージが少なく、先に立ち上がっていたタイガが手を差し出す。ユウは一瞬驚いた顔をしてその手を取った。
「ブツかってもうて、すまんかったな」
「ぼくは大丈夫だよ」
 次は同じ授業なのだからと、三人並んで歩き出す。セリオスを真ん中に両サイドをタイガとユウが挟む形だ。その状態にさっきまでのことを思い出したのか、またタイガが絡みだした。
「なんや、ユウには文句言わへんねんなぁ?」
「煩い、過ぎた話しを蒸し返すな!」
「過ぎた話ってなんやねんな!? わいはえろう傷付いたんやで?」
「えっ……あの……」
 行き成り険悪ムードになった二人にユウがうろたえている。そんなことにも気が回らない二人はヒートアップしていく。
「何やっていうねんな!! ええかげんにはっきりせえや!」
「そ、それは……」
 口篭るセリオスにタイガの血管もキレる直前だ。その時、傍から小さな呟きが聞こえた。
「っえ、おねえちゃん? ……身長?」
 そのポツリと呟かれた言葉にセリオスの顔色が変わった。それを目敏く見て取ったタイガは今までの不機嫌面が嘘のように、ニヤリと笑った。
「そーか、そーか。 お前、俺より身長低いの気にしとったんか」
「違うっ!!」
顔を真っ赤にして、否定の言葉を紡ぐセリオスにユウは不味いことを言ったかも、と冷や汗を流す。それに対してタイガは鬼の首を取ったかのような顔をして笑っている。
「お前、俺より5㎝くらい低いもんなぁ。 にしても、そんなに気にし取ったとは知らへんかったで」
「だから違うと言っている!」
「ほなら、なんで隣歩くな言うたんや?」
「そ、それは……お前の、その肩のモフモフは一体なんだ! 僕はそんなセンスの人間と仲が良いと、思われたくない!」
「な~ん~や~と~?」
 タイガの表情が一気に険しくなる。このまま、喧嘩勃発か?と思われたとき本鈴が鳴り響く。それと同時に雷が三人に向かって落ちた。
「お前等! 廊下で何を騒いどるか!!」
「ひ、酷いわ……ロマやん……」
「っく……僕としたことが……」
「ごめんなさい……」
 ロマノフの雷に三人は仲良く黒焦げになった。



「セリオス、お前結構やるやんけ」
「ふんっ、タイガお前もな」
 ロマノフのお説教を受けた後、セリオスとタイガが一緒に部屋を出る。お互い顔を逸らしたままで言い合う姿はどこか微笑ましい。
「とりあえず、ユウには何かお詫びせえへんとな」
「そうだな」
 そう言って二人は並んで歩き出した。
作品名:失言 作家名:あきら