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BYAKUYA-the Withered Lilac-

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「オレたちゃ、『忘却の螺旋』(アムネジア)の精鋭だ。『虚ろの夜』に来られるって事は、テメェも『偽誕者』(インヴァース)なんだろうが、この数相手に勝てると思ってんのか?」
 この男の発言で、ビャクヤの頭は混乱してしまった。
「……あむねじあ? インヴァース? 何を言ってるんだい。キミ……日本語で話してくれないかな? ああでも。『虚ろの夜』は大丈夫だよ。この『夜』の名前ってところだろ?」
 ビャクヤは、バカにしたような言葉で、更に頭の悪い、かわいそうな人を見るような目を向けると、その男は激昂した。
「テメっ! ナメてっとマジで……!」
「止せって、ガキ相手に大人げねぇだろ?」
 すまし顔の男が、ビャクヤに拳を握った男の肩に触れ、制止した。
「ってことで、ボク。お兄さんが教えてあげよう。この『夜』は、ボクの言う通り『虚ろの夜』っていうんだ。この『夜』には人を喰う化け物、『虚無』がいて、こいつに襲われた人は普通は死ぬけど、お兄さんたちやボクみたいに生き残る人もいるんだ。でも喰われたところは治らないから、『虚無』の一部が入って不思議な力が使えるようになるんだよ。それから、こうして自分から『虚ろの夜』に入れるようになる。分かったかな?」
 不良にしてはやけに頭のいい男で、彼の話でビャクヤは、全てを理解する事ができた。
「なるほど。お兄さんのお陰で分かったよ。僕がここに来られるのは。僕が『偽誕者』ってやつで。僕の獲物は『虚無』っていうんだね。不思議な力ってのは『顕現』。イグジスの事かな?」
 説明をしてくれた男は、ビャクヤに拍手した。
「その通りだよ、ボク。……って、えっ!? 『虚無』を獲物にするってどういうこと!?」
 終始すまして、笑顔だった男の顔が、一気に恐ろしいものを見るように変わった。
「何を驚いているんだい? そのままの意味さ。僕はここを縄張りにして。毎晩『虚無』の顕現を頂いているんだよ。この腹を満たすために。ね」
 ビャクヤは、微笑みながら話していたかと思うと、一気に口元をつり上げて恐ろしい笑みを向ける。
「それにさ。ここでなら。姉さんにも会えるんだ。もうこの世にはいないけど。この『夜』では会えたのさ。だから。『虚無』を喰いながら『虚ろの夜』を歩き回っていれば。またいつか姉さんに会えるんじゃないかって。思ってね。そしてもしかしたら。そのまままた姉さんと一緒に過ごせるようになるかもしれないとも。思うんだ」
 ふうっ、とビャクヤは大きく息をつく。
「喋り疲れたな。お腹も空いてるし。キミたちがいるせいか。いつのまにか獲物の匂いが消えちゃってる。やれやれ。どうしようかな……」
 ビャクヤの腹は、顕現でしか決して満たされない。獲物の『虚無』がいない以上、ビャクヤの食事は抜きになってしまう。ビャクヤにとっては大問題であった。
 どうしようか、と顕現を得られる方法をあれこれ考えているうちに、ふと、ビャクヤに妙案が浮かんだ。
「そうか。別に顕現は『虚無』から取って喰わなくてもいいじゃないか。ここにこんなに顕現に満ちている『偽誕者』(獲物)がいるんだからさ」
 ビャクヤは、背中に八本の鉤爪、八裂の八脚(プレデター)を顕現させた。
「ひっ、ひい!?」
 予想を遥かに上回るビャクヤの能力に、これまで強気でいた不良たちは、一気に恐怖に陥れられた。
 ビャクヤは、鉤爪を一本伸ばすと、この『夜』について教えてくれた男の腹に突き刺した。
「ぐほっ……! な、なん、で……?」
 ビャクヤは、突き刺した爪を引き抜くことなく、男の体を引き摺るように自らの目の前に持っていった。
 そして、普段は『虚無』にやっているように、手から糸を出して全身を拘束した。
「お兄さんは色々教えてくれたからね。お礼に真っ先に喰らってあげるよ!」
 ビャクヤは、鉤爪を自分の手のように広げ、拘束した男の心臓部分を口元に寄せた。
 顕現のみを喰らい、肉には一切手を付けてはいないものの、ビャクヤの行動は、まさに補食そのものだった。
 ビャクヤは、口元を離した。
「なんだいこれ? 『偽誕者』なんて言うから。顕現もさぞかし旨いのかと思ったら。食べるところが全然ないじゃないか」
 ビャクヤは、突き刺した爪を抜き、顕現が空になった男を捨てた。
 ビャクヤの意識から外れたことで、男を拘束していた糸が消え去った。
 鉤爪を刺された為に、男は腹部から血を流していた。生きているのか、それとも死んでいるのか分からない。
 仲間が突然やられた事で、不良たちに戦慄が走っていた。
「あーあ。全然食べ足りないよ。まあいいか。獲物はまだこんなにいるんだし」
 ビャクヤは、再び恐ろしい笑みを見せる。
「う、うわあああ!」
「に、逃げろー!」
 男二人が、恐怖のあまりその場から逃げ出そうとした。
「逃げてもムダさ!」
 ビャクヤは、糸を網にして放った。男たちは網にかかり、まるで身動きがとれなくなった。
「ヒイイイ!?」
 ビャクヤは、鉤爪を大きく広げながら、つかつかと彼らに歩み寄った。
「まあまあ。そう怖がらないでよ。なにも僕はキミたちを殺そうって訳じゃないんだからさ。ただキミたちの顕現を頂くだけ。ヒトの肉だの内臓だのには興味はないからね」
 ビャクヤは、鉤爪を男たちに伸ばし、刺し貫いた。糸の中で血飛沫が舞い、糸に血が滴る。
「でも。絶対に殺さない保証はできないけどね。……いただきまーす」
 ビャクヤは、鉤爪を引き寄せ、男の心臓付近から顕現を喰らう。
 蜘蛛の補食の仕方は、獲物を捕らえるとすぐに糸で拘束し、毒牙で咬んで毒を注入した後、麻痺して完全に動きの止まった獲物に、消化液を更に注入して、溶けた獲物の肉や内臓を吸い尽くす。
 蜘蛛によっては、獲物の虫の中身のみならず外も喰い尽くすが、大概は中身を吸い尽くして外は捨てる。クモの餌食となったものは、文字通り空っぽになる。
 蜘蛛のような能力を得たビャクヤの捕食も、自然界にいる蜘蛛のように、顕現という肉を、外部消化して吸うかのようにして、餌食の『器』を空にしていた。
 一人、二人、とビャクヤは次々と捕食していくが、『虚無』に比べると顕現が少なく、なかなか腹は満たされない。
「ひえええ……!」
 次々に仲間を喰われ、完全に恐怖に陥った男は、どうにかこの場を逃れようとする。しかし。
「逃げ場なんて。ないよ?」
 辺りはビャクヤの張り巡らしたウェブトラップに包まれており、彼の言う通りこの場から逃げ出す手段はなかった。
 巣網の隙間には何とか人一人通り抜けられそうな空間があるが、一歩間違えれば首を引っ掻け、そのまま切り落とされそうであった。
「みっともないったらない。大人しく喰われた方が苦しまずにすむよ?」
 ビャクヤは、つかつかと歩み寄る。
 相手はたかだか中学生くらいの少年である。そうだというのに、その威圧感は、自分の不良のリーダーさえも超えているように思える。
 男はついに、背後をウェブトラップに阻まれ、完全に逃げ場を失った。
「ひっ、ひいっ! お助けを……!」
 ビャクヤは無言で、右手を振り上げた。同時に右側の鉤爪も動く。
 三本の鉤爪を伸ばし、ビャクヤは、男の頭を三角に挟み込んだ。
「あんまり手間かけさせないでよ」
作品名:BYAKUYA-the Withered Lilac- 作家名:綾田宗