BYAKUYA-the Withered Lilac-
ジャックの顕現を喰らったことにより、ビャクヤの腹は満たされた。
「おや? 何を呆けているんだい? もうキミには用はないよ。どこへでも行きなよ」
ジャックは、顕現を奪われたせいか、体にもあまり力が入らない状態となっていた。
「ひっ、ひいい!」
ジャックは、はっ、となり、急いでビャクヤから逃げようと背を向けた。そのときだった。
ジャックは、背中から腹にかけて熱を感じた。同時に、おぞましい痛みが全身を襲った。
「な、なん、で……?」
ジャックは、背中からビャクヤに、鉤爪で突き刺されていた。
「言葉が足りなかったね。キミにはこの世以外のどこかへ。逝ってほしかったのさ」
ビャクヤは、ジャックを貫く鉤爪を抜いた。ジャックは、自らの腹から噴き出す血の海に沈む。
「よく考えたんだけど。『器』が残っている限り。キミの能力は完全になくなることはない。ということは『器』が満たされれば。またキミは人殺しをするんだろ? 僕の姉さんみたいに。不運な死にかたをする人が出てくるかもしれない。だったらここでキミを殺した方がいいかと思ったのさ」
ビャクヤは、刺した理由を教えるが、ジャックは瀕死になっており、聞くことができないようだった。
「し、死にたくねぇ……しに、た、くねぇ、よ……」
ジャックは、段々真っ黒になっていく視界に恐怖しながら、やがて事切れた。
「ふふふ……悪を成敗するのは。なかなか気分が良いものだね。……ふあーあ。腹も満たされたし。眠たくなってきたな。帰って寝よう……」
ビャクヤは、一気に訪れた眠気に大きなあくびをしながら、食い散らかした死屍累々の広場を去っていく。
広場の藪に、蠢く影があった。
『人の身でありながら、ここまで喰らうか。あの小僧、一体いかなる味がするものか……』
異形のもの、『虚無』の姿をしたものは言葉を話すことができた。
謎の『虚無』は、地面に転がる男たちを拾い上げ、蝕んだ。
肉だけを食み、内臓は辺りに散らした。ジャックの周りだけだった血の海が、辺り一体を沈めた。
『……顕現が足りぬ。肉だけでは我が腹は満たされん。あの小僧、猛き虚無食い。いつかその顕現を喰ろうてやりたいものよ』
謎の人語を話す『虚無』は翼を広げ、いずこかへと飛び去っていった。
この晩より、世間には川沿いの広場に、猟奇的殺人犯が出没すると広められ、夜間は警察が配備されるようになった。
しかし、能力を持つ『偽誕者』の中では、それが同じ『偽誕者』によるものであり、恐ろしい強さを持ち、顕現を喰らう『偽誕者』の存在が知られた。
その者は、自らの考えを否定されるようなこと、ジャックのような無法者であれば、命まで奪う学生の『偽誕者』であると噂されるようになった。
そして、鉤爪で切り裂いた返り血を浴び続けたその『偽誕者』は、いつしか赤紫に染まり、新たに別名として『ウィザードライラック』と呼ばれたのであった。
作品名:BYAKUYA-the Withered Lilac- 作家名:綾田宗