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梅嶺小噺2 ──雪梅の梦譚───

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砦の中の私の部屋に、
風が入って来るのだ、、、。
梅嶺の風が、、、。

冷たい風だ。
「身体が冷える」と皺を寄せて説教されるが、
この風に吹かれるのは心地よい。

凛と澄んだ梅嶺の風が、
幾らか開けた扉から、この部屋に入ってくる。
「生きねばならぬ」という呪縛から解かれたら、
この冷凛な風すら気持ちが良い。
かつてはこの気の中を駆け巡るのが好きだった。

冬を越え、
梅嶺の麓の雪が消えれば、
この山の頂は仄かな梅の香りで満たされる。

麓の梅が香る訳では無いのだ。

この山には不思議な梅がある。
まだその根元には雪があるというのに、花開き薫るのだ。
どれ程の樹齢か分からぬ古木に、
淡雪のような、真っ白な梅の花が一斉に開く。

大きな梅の古木が、梅嶺の断崖に立っている。
この世にただ一人残されてしまった雪梅の片我。
雪の中に、一際、真白に咲き誇るから、
人々は香りの主を見つけられない。


古には梅嶺の何処にでもあったという雪梅。
人々は皆、珍重し、次々に梅嶺から持ち去った。

だが、
雪梅はこの山の他では生きることが出来ずに、
皆、枯れてしまったのだと、、。

求める者はあとを絶たず、
次第に梅嶺の雪梅は数を減らし、
離れた断崖に立つ、二本の古木だけが残された。


たった二本だけになった雪梅の木。
流石に、大切に伝えられ守られていたのだが、

それでも求める者がおり。

王族であったろうか、
はたまたは富豪であったろうか。

大勢の人が山を踏み荒らし、
雪梅の片我を、根こそぎ掘り取り、都へ運び移された。
大樹故に枝を落とされ、無理矢理、根を移された。
崖に生きる雪梅を持ち出す為に、幾人もの命が失われる。
そして移された雪梅もまた、花を開く事は無かったという。


一体いつ頃の物語であったろう、、、。
擬人化された物語。
物語は悲しい結末で、悲恋として語り継がれた。
遠い昔の寓話の一つとして。

雪梅の仙霊が、
まだ待ち続けていると知っている者は居るだろうか。

山に残った雪梅は、
変わらぬ姿で幾春も咲き続けるのだ。
何処にあるかも忘れ去られた雪梅樹。

私は幸運にも、若い時分に見ることができた。

雪梅は、
連れ去られた片我の運命を知るか知らぬか。


間もなく私の魂も、
この梅嶺の土となる。
そう遠い日ではない。
そうならなくてはならないのだ。

全てが最善になるように、、、、。
私だけが出来る事。






この身体の苦しみから解かれたなら




岩山に一人立つ雪梅を
笛を奏で慰めてやろう



淡雪の如き花が開いた時
季節を忘れた君の傍へ
私が春を告に行こう
その頬がほころぶように






──終──