優しさに包まれたなら
早朝と言うには早すぎる時間帯
シャアは胸元が冷たくなったことで目が覚めた。
昨夜、確かに腕に抱いて眠りに着いたはずの最愛の片翼が姿を消している。
初秋とはいえ、朝晩はすっかり気温が下がってきていた。
サザビーの脱出カプセルを抱きしめて大気圏突破を決行した衝撃の、そのほとんどをその身に受けた片翼の体調は、まだ万全とは言えない・・・と言うより、完全に元通りになる事は無理だと、妹で大病院の理事長職に就いているアルテイシアに言われている。
そんな彼が何処に行ったのか。
シャアは心配になりベッドから抜け出した片翼を探しに出た。
シャア的にはこじんまりした印象を抱くのだが、二人きりで過ごすには些か広い作りの屋敷の中を、最愛の姿を探して歩いていると、中庭に面したテラスに小さな影があった。
彼 ― アムロは子供の様に膝を抱えて座り、空を見上げている。
その姿があまりに寒そうに見えて、シャアはベッドから持ってきていた毛布を広げて、後ろからアムロを包み込んだ。
「わっ!! びっくりしたぁ」
「びっくりしたのは私の方だよ、アムロ。胸元が冷えたなぁと思って目覚めれば、君の姿が無いのだからね」
「あ〜〜〜。ごめんごめん。あなたに散々啼かされた喉が渇いたから水を飲みに起きたんだ」
「で? 水を飲みに出たはずの君が、何故こんな外に寝衣一つでうずくまっているのかね。体が冷えると骨折した個所や縫合した部分が痛みを発するのではなかったかな」
「ハハ・・・。そうだった」
「ほら、手足が冷え切っているじゃないか!」
シャアは自分も毛布に入り込み、アムロを全身で抱え込んだ。
「はぁ〜〜。あなたって、いつもあったかいなぁ」
「君への想いが湧きあがり続けているからね」
「相変わらず、タラシの台詞だな」
「君限定だ。で? 何故こんな場所に?」
「ああ。あれ」
シャアの問いかけに、アムロの片腕が挙げられて空を指さした。
「季節は確実に移ろっているんだなぁって思ったんだよね〜」
彼の指す先には、特徴的な三つ星を抱く狩人の星座が天頂に瞬いている。
「オリオン座・・・か」
「そっ。あれは冬の星座だろ? 秋だと思っていたけど、じきに冬が訪れるんだなぁって思ったらさ」
アムロはそのあとに続くであろう言葉を告げなかった。
だが、私は彼が感じた事柄を理解した。
それ故に、私はアムロを抱く腕に少しだけ力を入れ、そっと撫でさすった。
アムロが体の力を抜いて、全身を私に預けてくれる。
その全幅の信頼が私を高揚させ、心の底から幸せを感じさせるのだ。
「あと少し星空観賞をしたら、ホットレモネードを飲んでもうひと眠りするとしよう」
私がそう提案すると、アムロが小さく頷いてくれる。
少しだけ色を変えだした東の空を見つつ、私達はひと塊にまとまって時の流れを感じていたのだった。
2018.10.09
*イベント参加の為に4:30の起床して犬の散歩へ出たら、天頂に輝く狩人の姿。その瞬間に降臨された掌編です。
二人で過ごせれば、それがどんな場所でも楽園になるシャアだろうなぁと・・・。
作品名:優しさに包まれたなら 作家名:まお