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代打の代打
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はじまりのあの日17 中華の街へ

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「じゃ~、いつも通り、一号車は俺が運転しようじゃない。一緒に乗るヤツ~」
「なら、ゎたし、神威のに~さん号で~。リンちゃ~ん、一緒に乗ろ~よ~ぅ」

IA姉にさそわれる。そう、いつもなら、いの一番にそう宣言しただろう。でもあの日は違った

「う~ん、どうしよっかなぁ。又、変な視線貰うのもやぁ(嫌)だしな~」

その眼差しが気になって、どうしようか示唆をする。もちろん、心の底では乗りたいのだ。彼の車に。そしてもう一つ『乗りたい』ものがあった

「リンちゃ―」
「リ~ン。悪かったと思ってるわ。だけどね―」

悲しげな声をあげる、めぐ姉。それを遮り、ため息交じり、告げるめー姉

「拗ねるのはやめて。アタシはね、別に神威君とリンが仲良くするの、ダメなんていってないでしょう」
「そ、そうだよリンちゃ~ん。わたしもね、羨ましいと思ってるくらいだよ。ぽ兄ちゃんと仲が良くって」

めぐ姉も、我が意を得たと加勢、身を乗り出す

「だよな~。おにぃに、存分に甘えりゃあ良いじゃん、リン」

リリ姉、大福を頬張り苦笑いをうかべながら

「リンちゃん、ユキもね。お家(シェアハウス)にいる時は、ひやま先生と、いっつも一緒にいるんだよ」
「マヂかっユキたん。いっつも一緒って」

きっと、変なことを想像しただろうテト姉。鼻息が上がる、が

「うん、テトちゃん。ねむるときとか、おふろとかいがいはね。お家のリビングにいるときは、いっつもいっしょ~」
「かむさんとリンさんの次によく見る光景ですよね~」
「特に、シェアハウス組のうちらはね~。先生と仲良しユキちゃん」

当然のことを告げるユキちゃん、嬉しそう。今日はピコ君を膝に乗せるMikiちゃん、楽しそう。面白くなさそうなテト姉

「ユキほんとはね、リリちゃんもいっしょがいいな。先生とリリちゃんが『ユキの』おにいちゃん、おねえちゃんなの。ぽ父さんがお父さんで、カイトさんは『お母さん』メイコちゃんが、一番上のおねえちゃん。ユキ、ひやま先生とリリちゃんだぁ~ぃ好き」

ユキちゃんの言葉に涙ぐむ、キヨテル先生とリリ姉。メンバーも心が温まる

「オレお母さんなんだっ、はっはは~」

嬉しそうに笑う、カイトお母さん

「良いわね~それ。VOCALOIDPROJECTで家族。ボカロファミリーって感じねぇ」

めー姉も上機嫌。みんなが同じ思いであったろう。その場のメンバー
、微笑みが連鎖する。と

「へへへへへ。ユキたん、それはもしや、先生たんとのきんだ―」

古都での出来事を、忘れたのか。懲りないテト姉、軽口を言い始める。さすがに、この軽口は心無い。多分、誰しも思った。すると

「重音さ~ん」

眼鏡を外す先生の、氷点下の声。目が、相当に鋭い。さすが『氷山』先生。周囲全員凍り付く

「―っ」

声を出さずに、満点の姿勢で土下座をするテト姉。ただ、耳を澄ますと、あばばば、テスト、あれ、などと言って錯乱。恐怖におののいている

「どうしたの、テトちゃん」
「何でもね~よユキ。気にすんな」

先生の膝の上、小首をかしげるユキちゃん。リリ姉が撫でまわして誤魔化す。眼鏡をかけ直し

「では、二号車は私が運転させていただきます」
「センセとウチ、天使様達(みんな)できっまり~」
「「「「きっまり~」」」」

天使様が駆け寄り、たちまち、先生、リリ姉の周りに花が咲く。エンジェルフラワー、百花繚乱

「じゃあ、がっくんの車に乗って良い」
「悪いわけナイじゃない」

言って、撫でてくれる。やっぱり、この手は温かい。ささくれ立った気持ちが、温和になってゆく。頑(かたくな)に張った意地の氷塊、溶けて消えていく。だったらついでに重要事項、これも聞いてしまった方がいい

「ん~と、ついでにね。膝に乗ってもいい」
「いいんじゃな~い」
「うふ、じゃあ失礼しま~す」

さっきまでの事など、無かったように乗りに行く。久々の膝に乗せてもらえるのが本当にうれしい。収まって思う。やっぱりここは、わたしだけの特等席だと

「はは、リン。何だか、オレ達もしっくりくるよ、その方が」
「何時も見ていたユエ、何かが抜け落ちたような感じでゴザッタ」

カイ兄を始め、メンバーまでもが『ほっ』とする。そんな表情だった

「やっぱりこ~でなくちゃ、神威のに~さんとリンちゃんは~」
「だよね~、IAちゃん。わたしも安心しちゃったぁ」
「何か自分もスッキリしたっす」
「リンに振り回されるカンジで、シャクだけどな~」

心から微笑んでくれる、IA姉。胸の前で、袖ぱたぱた。心底安堵の顔、めぐ姉と勇馬兄。言葉通りの顔をするのは片割れ。そして

「じゃ、おれもがく兄の車に乗る」

意外な申し出を口にする

「こんな風に、みんなが振り回される二人がさ~。いつもどんな風~にしてるか気になるじゃん。オレも乗らせてがく兄。そういや、長距離移動の車の時、がく兄と一緒のこと、あんまなかったし。IA姉も良いっしょ~」
「どんな風にっても、いつも通りじゃない、レン。ま、いいよ。断る理由、ないじゃない」
「うっふふ~、レンくんも一緒だね~」

完全に、弟を見る眼差しの彼、IA姉。もしかしたら弟は、少しでもわたしを困らせようとしたのかも知れない。振り回した張本人を。その目論見(もくろみ)は、残念ながら失敗する

「あ、じゃ~わたしも一緒に乗って良い~がくさ~ん」
「ワタシも同乗させていただきたいですわ、神威さん」
「問題ないじゃな~い。はい、一号車ケッテ~イ。可愛い子に囲まれちゃったじゃない。またハーレム車内、超俺得」

『可愛い子』の中に、弟も含まれている辺り彼らしい。が、決定を宣言する彼の声に

「えっが、がく兄」

慌てる弟。そう、最近二人の姉は、レンのペースをかき回す事が多い。弟は、きっとわたし以上に気を遣っていたのだろう。二人と接することに

「どした、レン。いいじゃない、仲良しおねぇ二人と一緒で」

レンの中の事情がどんなものか、今でも正確には分からない。ただ、困っている事には気付く。双子ナメルナ。紫様は気付かない。わたし、困らせようとした片割れに、助け船は出さない

「レンくん、嫌ですか。悲しいですわ、近頃、避けられている気がしますもの。少し前は、良く一緒にお休みしましたのに~。好きでしたわ、レンくんのだきまく―」
「わあ゛~、あ゛あああああ~」

ルカ姉の言葉を、必死に遮る片割れ

「ほ~んと、ルカ姉。なんだか寂しいな~。ついこの間まで、お風呂で洗いっ―」
「うぎゃ~あ゙~あ゙~―」

さらに大声を張り上げる弟。メンバー全員爆笑。墓穴を掘ってしまったようだった

「はははははっ、こっちはコッチで複雑そうだね。どう着地するんだろう」

苦笑いのカイ兄の言葉。どうやら、みんな同感なようで

「でもこっち、着地点あるんすか、カイサン。テレマーク入んねぇ」
「いっそ、着地点ぶっ壊した方が上手くいくんじゃね~の」

薄笑い、多少茶化す表情、勇馬兄。リリ姉は、滅茶苦茶に愉快そうな声

「あっはは、かもね。さて、3号車はオレ。誰乗り合わせ~」
「アタシは鉄板よね~カ・イ・ト」
「「「「新婚さ~ん」」」」

仲睦まじい、カイ兄、めー姉。はしゃぎ出す天使様