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ダレモ、知らなくていい事ダヨ。

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ホテルの廊下で、男が携帯に向かって何か話している

「アハッ……もちろんだよ、無花果おねぇーさん!」

そう言って、男は相手の言葉も聞かずに通話を切ってしまう。
男──飴村乱数は、ホテルの廊下のシミ一つない白い壁にもたれ掛かりながら、今日の出来事を思い出して深いため息をつく。

「ホント、みんな変わった……ボクだけ変わってないなんて、アホらしい。」

態とらしく笑みを浮かべて、高い声で話して自分を偽って取り繕って……。

「これじゃ……幻太郎のこと言えないなぁ……。」

自嘲気味にそう呟く飴村乱数に、いつものようなあざとい笑みはない。
もともと、飴村乱数にとって世界はつまらないものだった。
人の気持ちも、人の行動も、人間関係ですら自分の思い通りに動かせてしまう。
誰にも、理解されなくていい……誰にも寄り添うわなくていいそう思ってさえいた。

「なんで……あの時ボクは……」

飴村乱数の頭に思い浮かぶのは楽しかった、昔の思い出。
自分ですら受け入れられない自分を受け入れて、見える世界を変えてくれた仲間との思い出。
自分が、壊してしまった拠り所。

「今更、後悔したって戻れない……でも、ボクだけ取り残されたまま。」

飴村乱数の時間は、3人と違えたあの日から動かないまま。
体に見えない何かが、まとわりついて苦しくなって、息も出来なくなっていく、先の見えない底なし沼に足を取られて前に進むことも、もがくこともせずにただ沈んでくそんな日常。

「まぁ……ナレタケドサ。ボクは、進まなくていいんだ。」

自分の中にポッカリと穴が空いたようでそれを埋めようと色々な『おねぇーさん』と遊び歩く日々。
ホントの自分を隠して隠して、嘘の自分を切って貼って大きくして、ハリボテの中に隠れて誰にも心を許さず────

「まぁ……ダレモ、知らなくていい事ダケドネ!」

暗い思いを、断ち切るように飴村乱数は今日もあざとい笑みを顔に貼り付ける。
あの暖かい拠り所には戻れないと知りながら。