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炬善(ごぜん)
炬善(ごぜん)
novelistID. 41661
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CoC:バートンライト奇譚 『盆踊り』前編

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「村長は昔翻訳家の仕事をしてたみたいで、本も好きではあったんですけどね。ああところで、その親睦会も村長の家のね、書斎でやっていたんです。普段はあの書斎に絶対人なんてあげないんですけれど。本の影響にあてられちゃったんですかねえ」

 バリツは切り出した。
「村長は今、あの櫓にて太鼓を叩いているというが、直接話を聞くわけにはいかないだろうか?」
 ダメ元で問いかける。それができるに越したことはないが――
「難しいと思います」
 案の定であった。

「いつもはこんな遅くまで踊っていないけど、あんな様子じゃ……それに、縄梯子も、上にあげちゃったみたいですし」
「ふむ……確認であるが、仮に村長の元へ行けるのであれば、話を聞くこと自体は構わないだろうか?」
 これも今の時点では、あくまで「仮に」の話ではあったが。
 一瞬の間を置いて、付け足す。
「――あの踊りを中断する形になるとしても」

 彼女は一瞬躊躇ったが、答える。
「そりゃ本来アタシの一存では決められませんよ。でも、村長の様子もおかしいですし、このままだとこの村自体も取り返しがつかなくなっちゃいそう」
 そして、続ける。
「ええ――何とかしてくださるというなら、お任せしますよ」

 斉藤が一瞬、歯を見せてにかっと微笑むのを垣間見た。
(いや、本当にやる気なのか、君は……)

「……あなた方は踊らないんですか?」
 数秒の沈黙の後。
 おどけてみせたような、好子からの問いかけ。
 それは、場の空気を明るくしようと、試みに尋ねているように感じた。

「実は私も踊ったのだが、大変な目にあった」
 肩を落としたバリツの視線が、斜め上を左右に泳ぐ。
「三途の川が見えた、気がする」
「いや~うちの馬鹿が変な踊り踊ってなあ」
 タンの一言に、バリツはちょっとカチンと来た。
 そんな場合ではない所なのだが――

「タン君、君の給料を減額してもいいんだぞ」
「なんやって!?」
 アシュラフも、何がスイッチとなったのか、反応する。
「金銭に対する執着! 偶像崇拝ですね」
「なんでやねん! 金は日々を生きていくうえで重要なものやぞ!」
「人は信仰によって救済されます」
 バリツは思った。いったい君が何を信仰しているのかはさておきネ。
「なればこそ、金銭などなくても生きることはできるのです」
「……なんとなくアシュラフ君ならマジでできそうなら気がしている」
 私の屋敷のお菓子とか物色してたり、そもそもその大量の銃器はどうやって入手したのだろう、とツッコミたい気持ちを抑えながら呟く。

「いやいや、無理やろ。にしてもさ」
 タンが鷹揚に、アシュラフに言う。
「よくみたらおまえさん、服汚いよな~。分かったから、うちに連れてって風呂入らせて」
 まるで汚れた野良猫に言うかのようなノリで、爆弾が投下された。
 凍りつく場。
 沈黙。

 成る程アシュラフのゴスロリファッションは、良く見れば白い布地に埃と煤が目立つ。黒いスカートにも、糸のほつれが伺えた。
 タンは悪気がなかったのかもしれない。
 だが、言われたアシュラフの美貌は青ざめ、ひきつり、見る見るうちに冷たいポーカーフェイスと化していく。その目はかつてなく据わっていた。

「タン君、後で話がある……」
 バリツは片手で顔を覆い、タンの肩をポンと叩く。今回ばかりは擁護しようにない。

「とにかく!」
 斉藤が話題の変更を試みる。
「村長自身に近づき、問いただす必要があるだろう。その役目は俺に任せてくれないか。さっきも言ったとおりに、あの櫓を刻みながら、頂上を目指す」
「マジでやるのかね、斉藤君」
「言っただろう。成せば成るさ」
「だが、斉藤君―ー」
 バリツは自らの体験を鮮烈に思い出し、身震いする。
「実際、あの踊りは近づくだけでも危険ではないかと私は思う」
「私は平気でしたがね」
 グサリ。
「俺も平気だったで」
 グサグサリ。
 アシュラフがタンの鼻先を指差す。
「あなたはさっさと踊ってきなさい」
「そんな~!」
「と、ともあれだ、斉藤君。もしもあの魔力に取り込まれてしまえば――」
「そこはこうするのさ!」

 言い出した途端、斉藤が櫓へ向けてダッシュを開始した。
 一同が呆気に取られる間もなく、あっという間に離れていった彼は、踊りの輪、村人と村人の合間をすり抜ける。
 途中から眼を閉じたまま走っていたのだろう。上半身を守る様に交差させた両腕を前に、彼は櫓へと激突した。

「思った通りだ! 勢いとパワーこそ正義だ!」

 振り向きざまのガッツポーズに、バリツは肩を竦める。
 彼はすぐに櫓へと向き直ると、ポーチから工具を取り出し、掘削を開始した。

 踊る村人たちは、彼に反応を見せない。まるで彼がその場にいること自体を、認識していないかのように。

 ふと思い出し、始めに話を聞いた三吉を、バリツはちらりと見やる。
(流石に怒られるであろうか……)
 だが三吉はあんぐりと口をあけているのがわかったが、止めに入る様子はなかった。まだ状況を飲み込めていないだけかもしれないが。好子と会話していたのを聞き、何か意図があると判断したのだろうか。

「ひとまず、あそこは斉藤君に任せるとしよう」
 バリツは一同に向き直る。 
「ともあれ、村長に接触を試みる以外にも、あの儀式の正体と目的を探る必要もあるだろう。村長の豹変の理由も、気がかりだ。そこで……」
 一呼吸置いて、続ける。

「夜分遅くで申し訳ないが、村長の家を訪ねるべきだと思う。親睦会が開かれ、何やら怪しげな本もあるという。手がかりが掴める可能性は大きいだろう」
「邪教徒と考えが被るのは癪ですが、一理あるでしょう」
「せやな」
「は?」
 アシュラフがタンを睨む。
「怖いよ!」

 バリツはちらりと好子を見やる。
「そういうことなら私の紹介ということで大丈夫ですよ。ここ数日は村長の奥さんも何かに怯えたみたいに引きこもっちゃってるけどねえ。私の名前を出せば、きっと話を聞いてくれると思うわ」
 これはとても心強いことであった。
「ありがたい、好子殿」

 続いて、林を見やる。
 彼女は一連の流れに、いささか萎縮しているように思えた。
「私は、皆さんを待っています。私は、ほら、この村の部外者ですから。そこまではちょっと……」

 部外者という言葉は自分達にも暗に向けられていることが察せられる。
 言われてみれば、無理もない反応ではあった。
 自分たちは本来、この村の住人ではないのだから。
 とはいえ。

「林君」バリツは諭すように語り掛ける。何だか熱が入ってしまったのを自分でも感じる。
「原因はわからないが、この村をめぐる怪異に巻き込まれた時点で、我々はもはや部外者などではないのだ。もちろん、同行を強制はしないし、一社会人としての世間体も理解する。しかし、そも一人の人間の美徳として―ー」

「おーい所長、おいてくぞ~~」
「やはり現時点で確実に邪教徒でないと断言できるのは、私だけのようですね」

 どうやらいつの間にか好子に村長宅を訪ねていた二人は、先に進んでしまっているらしい。
 きょとんとする林を後に、バリツは慌てて二人の後を追いかけた。