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炬善(ごぜん)
炬善(ごぜん)
novelistID. 41661
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CoC:バートンライト奇譚 『盆踊り』前編

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「……今の声は? ――ここは?」
 冒険家教授バリツ・バートンライトが気づいた時、彼は暗闇の中にいた。
(私は、執務室にて作業をしていたはずだ……だが、あの太鼓の音で……)

 目の前で、光が唐突に爆ぜる。
 ――燃え盛る焚き火であった。

 それは煌々とあたりを照らし出すが、未だ周囲を広く窺い知ることは叶わない。 
 彼は気持ちを落ち着けるために、深呼吸する。
 湿り気を帯びた土と、瑞々しい木々の匂い。
 心地よい、夜の空気。
 ともあれ、立ち止まってばかりもいられまい。
 彼は前へと踏み出す。

「待ちなさい」

 風を切る音。金属音。
 鼻を掠め、そのまま留まる、火薬の薫り。
 バリツは凍りついた。
 自分は銃を向けられている。
 だが……
「アシュラフ・ビント・へサーム君」
 心当たりはあった。
 参ったとばかりに、バリツ・バートンライトは両手をあげる。

「シャレにならないぞ……その銃を降ろしたまえ」

 彼が冷や汗と共に見下ろすのは、一人の少女だった。
 身長140センチといったところか。
 黒尽くめの、ゴシック・アンド・ロリータ風ファッション。
 道ですれ違えばハッと振り返ってしまうかのような、可愛らしい顔立ち。 
 仄かな明りに煌く、銀の長髪。
 
 ――構える右手には、似つかわぬ巨大な拳銃。 
 バリツは銃に詳しくはなかったが……デザートイーグル?
 いったいどこでこんなものを。そもそも大の大男でも片手で扱っていいような代物ではないぞ。

「この邪教徒……」
 幼い少女のそれに相違ないはずの声に、重い殺意がにじみ出る。
 深い光を湛えた宝石めいた瞳に、敵意が宿る。
「バリツ・バートンライト。何故あなたが、私の名前を知っているのですか?」

「造作もない。初歩的なことだ、友よ」
 精一杯の笑顔で、バリツは言い放つ。
「冒険家教授たるもの、調べはつくものさ」

 アシュラフは、はあ~っ、とため息をついた。

「ロリコンですね」
 唐突に一言。
「……何?」

「変態」
「待ちたまえ」
「ファッションダサい」
「なんてことを」
「硬派厨中二病」
「どこでそんな言葉覚えた」
「年収三千万のくせに毎日お茶漬け」
「何で知ってる!」
「ロリコン」
「こらー! 邪教徒呼ばわりより断然傷つくわ!」

「うわあ~」
 間に入るかのような、間延びした声。
 作業着に身を包んだ大柄の男性であった。
「うちの所長ロリコンかよ~」
 短い縮れ毛。親しみやすさを感じさせる福福しい顔つき。
 胸部には、タン・タカタンというネームプレート。
 彼はバリツにとって顔なじみの男であった。この大男は、自分の邸宅に勤める専属スタッフなのだ。
 彼もこの場に来ていたのか――いや、それにしても何たる物言い。

「タン君……きさま」
 助手を視界に捉えつつ、バリツの眉はぴくぴく震える。
「まあ争うのやめえや」
 タン・タカタンは近づき、上機嫌に、アシェラフに語りかける。
 バリツが爪先立ちして届くか否かの高身長を有する彼であったが、こうして少女と並び立つと、改めてその体格を自覚する。

 飲酒から間もないのか、顔が赤らんでいる。
 バリツは悟った。こやつ、作業着から着替えないまま晩酌していたのか?

「うちの所長が何かやらかしたんやろ? こいつ変態だからさあ」
「後で覚えていたまえよ、酔っ払いめ」
 引きつった笑み、眉間に皺、額に血管。バリツ。
 タンは気にも留めず続ける。
「とりあえず、その銃を下ろしてさ。ここは穏便に」

 風圧。金属音。
 少女の長髪がふわりと舞い上がる。
 タン・タカタンは呆けたように目と口を見開いた。酔いが消し飛んだ。
 
 左手の小さな拳銃が、彼の額を真っ直ぐに狙っていた。
 右手の大口径拳銃で、バリツを狙うまま。
 目にも留まらぬ速さ。

「P220やん……」タンが呆けたように呟く。

「愚かなる邪教徒ども。今ここで二人とも肉の器から解放してさしあげましょうか」

 呆然としたまま(両手は挙げたまま)、二人の大の男は顔を見合わせた。
 アイコンタクトで、無言のやりとり。

(所長、これ積んだんじゃね?)
(あー、これはちとマズいかもしれん)

 バリツ・バートンライトは、マーシャルアーツ「バリツ」の嗜みを。
 タン・タカタンは、元自衛官のキャリアを有していた。
 そんな大の大人が、二人して悟っていた。
 この少女には勝てない、と。

「おお! そこに誰かいるのか!」

 豪快な声が響いたのはその時だった。

 三人はいっせいにそちらを振り向いた。

 筋肉質の男が一人、焚き火の側へと歩み寄り、立ち止まった。
 バリツと同等の身長。秋の夜にはやや肌寒そうにも見える甚平。
 作業具でも入っているのだろうか。腰にはウェストポーチ。
 堂々たる腕組。仁王立ち。
 そして。

「そこの君……何故頭にツボをかぶっている?」
 バリツは問うた。さり気なく、銃口からそそくさと離れながら。
 少女も、何じゃあいつとばかりに言葉を失っている。

 そう――彼は頭に壷を被っていたのだ。まるで誰かに目隠しされたかのように。
 しかし、全く視界に困っているそぶりがない。良く見れば、こげ茶の壷に描かれた、黒く繊細な模様の中に、覗き穴めいた部位が確認できるが――。

「我が名を聞きたいか」

 会話がちょっとかみ合っていない。
 タンは呆れて、
「いや、そっちじゃなくて」

「我が名は斉藤。斉藤貴志だ」

「……」
「……」
「……またもや邪教徒」

 沈黙。

「それより」斉藤が口を切った。「ここは一体どこなんだ」

 きょとん、とばかりに、バリツとタンとアシュラフは、顔を見合わせた。

「確かに道理だ」
「つーか、そもそもの話だよな」
「そう、これも邪教の策略というわけですね」

「きみがっ!」「言うなやッ!」
 異口同音に、大のおとな二人は叫ぶのであった。


 ドン!
 突然の大太鼓の音が、四人の臓腑に響き渡る。
 ドン、ドン、ドン!
 音に連なるかのように、環状に設置された松明が、手前から遠方へと次々と灯り、あたりを照らし出していく。
 この場所の全貌を明らかにしていく。
 ラジカセ音源であろう。小気味のよい和のBGMが、秋の大気を振るわせる。
 
 気づけば空には星が瞬き、その下の広場に高い櫓があった。
 10人は優に超えるだろう、複数人の男女が、櫓を囲み、踊っている。
 そして櫓の上で、誰かが大太鼓を叩いていた。

 彼らの目の前に、盆踊り会場が広がっていた。



 そう。
 彼らは、この場所へ誘われたのだ。
 この鬱蒼と茂った森の、山の、ど真ん中に。
  
 ――尾取(おどり)村に。