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みんないつもちょっとだけずるい

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その日のワグノリアは夕食時の混雑を抱え、フロアチーフである八千代が早番で上がり、同じフロアスタッフの小鳥遊も妹を病院に連れて行くという事で急遽休みを取っていた。フロアに残されたのはぽぷらと極度の男性恐怖症で男性を見るだけで殴ってしまう伊波の二人だけ。さらに運が悪い事に伊波の苦手とする男性客ばかりが訪れるため、結局ぽぷら一人では手が回らず、キッチン担当である相馬と佐藤がフロアスタッフとして借り出されたのが一時間程前の事である。

「佐藤さん、機嫌悪そうですね」

妹の具合も良くなり、差し入れ片手に顔を出した小鳥遊に八つ当たりする事も出来ず、かといって男性恐怖症で男性客を殴ってしまう伊波のどちらに八つ当たりする事も出来ずに居る佐藤は禁煙である厨房で煙草を燻らせながら深呼吸を繰り返す。紫煙を相馬にだけ投げかけながら苛立ちを煙草を吸う事で抑えては不機嫌が治るにはまだ時間がかかりそうだ。
こういう時、相馬は長い付き合いで年の近い佐藤の気持ちが手に取るように判る。そして、佐藤の優しさに改めて感心しては煙に咽せてながら軽く抗議するだけで終えた。本当に彼は人がいい、ちょっと口の悪い人物であれば二人に嫌味の一つでも言い兼ねないと思う。少なくとも相馬ならば、笑顔をまき散らしながら元凶である伊波と小鳥遊の二人の秘密で脅しかねないというのに。

(佐藤くんは本当にいい人だよねぇ・・)

小鳥遊と八千代がフロアに入ったのでフロアも落ち着き、機能していくだろう。混雑の波が引いたので相馬と佐藤の二人は遅い休憩を取っていた。ウェイター服のままで机に長い足を乗せ、佐藤は煙草を吸う。いつもと変わらなさそうに見えるがよく見れば眉間に皺が出来ている。そんなに接客が嫌なのかと相馬は不思議に思いながら差し入れのお菓子を咀嚼しながら佐藤を改めて眺めた。
細身の長身に金色の髪は片目が隠れる程伸びていて、表情が伺えないようにも思える。事実、仏頂面の彼の表情があまり変わる事はないけれど、それでも喜怒哀楽があるのは知っていた。普段は着ている白いコック服ではなく、白いワイシャツだけで支給されている黒いタイをつけず、ワイシャツも窮屈なのか第二ボタンまで開かれていて鎖骨が見えた。揃いの黒のスラックスは組まれた足の長さを強調するようでこちらの姿も様になっている。

事実、佐藤はモテる。押しは弱いが優しいし気遣いが出来るから女の子には困らないのだ。だが、幸か不幸かそんな彼が好きなのは仕事の出来ない元ヤンの店長の世話に走り回る八千代なのだから本当に苦労性だとしかいい様がない。とはいえ、相馬が佐藤の恋愛に口出ししてもどうしようもない。
さりげなく佐藤の後押しをしてみても八千代はどうにも相馬の思惑とは正反対の方向に走ってしまい、代わりに相馬が佐藤のフライパンで殴られるという理不尽な目にあってしまうのだから。

「なんだよ、ジロジロ人の顔を見て」
「ううん、八千代さんはもったいないなーと思って」
「・・・は?」

「佐藤くんはこんなに八千代さんの事を想ってているのにね」

「どうした、急に・・なんか悪いものでも食べたのか?」
「そんな事ないよ、ただそう思っただけ」

訝しげにこちらをみつめる瞳は驚きに丸くなっている、とはいえ相馬がわかる程度だから他の人からしたらそうはみえないかもしれない。訳が分からないといった佐藤は相馬に焦れたのか、銜えていた煙草を灰皿に押しつけると自分の分の差し入れの菓子をもぐもぐと食べ出した。

「ひょっとして照れた?」
「うっせぇ」

頬杖をついて食べている様を眺めている。佐藤くんは本当にいい人だと思う。
そして、そんな佐藤くんと八千代さんの恋が上手くいかない事にどこか安堵するのはどうしてだろうか。

(ーー金髪以外だと相馬さんの好みって佐藤さんに当てはまりますよね)

まさか、ねぇと思いながらも佐藤の顔から目が逸らせないのは何故だろうか。相馬の気持ちは知ってか知らずか佐藤は口元にお菓子のくずをつけたままモフモフと咀嚼していく。手についたクリームを舐めたりするせいか、赤い舌がチラチラと見えて目が離せない。堪え切れずに立ち上がると佐藤の前へと近づいていく。

「・・どうし、ーーーっ」

机に手をついて口元についていたお菓子を舐め取るとそのまま無防備に開かれた口内に侵入して舌を絡めた。今の今までお菓子を食べていたせいか、甘いクリームとスポンジの残骸が残っている。その残りすら一つとして綺麗に舌で掬い上げてやれば、佐藤が息を飲む音がした。抵抗する隙間もなく、綺麗に整った歯列や歯茎の裏をくすぐってみれば、それだけで堪らないのか。シャツを掴む手に力が入る、息すら奪うように深く口づけて暫し舌を絡ませて仕事場には不似合いな水音を立てて離れれば漏れた雫が銀糸を残して彼の唇をほんのり桜色に濡らした。

「おま、お前っ・・!!」
「フライパンで叩いてくれていいよ」

そういった相馬の顔は普段の笑顔ではなく、今にも泣き出してしまいそうな顔だった。

「・・・あのな、叩いてくれって顔してる奴を叩く趣味はねぇよ」

「佐藤くんってホント、いい人だよね」
「うるせぇよ、だから泣くな・・相馬」

そう言って苦笑しながら相馬の青色の髪を撫でる手がどこまでも優しくて本当に胸が苦しくなった。
彼の肩に頭を預けて途方に暮れていると頬をほんのりと赤くした彼から優しい口づけが降ってくる。

彼の優しさは彼の名前のようにどこまでも甘く優しくて、それがまた相馬を悲しくさせた。



休憩が終わると何事も無かったように二人はいつものコック服にエプロンをつけて厨房に立っている。
休憩室であった事はまるで無かった事のように思える程、あまりにもいつも通りに。

ただ、時折ワナグリアのメンバーがみていない隙を狙って相馬と佐藤の二人がキスをするようになったのは彼らだけの秘密となった。