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首絞め苦しめクライ夢

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「こんな事をしても意味ないよ」


 そう言ってヴェネチアーノは、自分の腹に乗っているロマーノをいつもの様に穏やかな顔をしてただ見上げていた。
昼下がりの部屋、組み敷いたヴェネチアーノを睨みつけながら、なんでこんなに静かなのだろうとロマーノは思った。
いつもならこの時間は近所の調律事務所からバイオリンの音色が入り込んでくるのに、その音どころか鳥のさえずりさえ聞こえない。
それに開け放した窓からはいつも通り光も差し込んでいる筈なのに今日は薄暗くて、何だか足元からジワリジワリ、闇に浸食されていく様で落ち着かない。
何もかもが、落ち着かない。


「意味はないんだ、兄ちゃん。だからこんな事やめようよ」


 何故だろう、その幾つかの不安についてぼんやりロマーノが考えていると、抵抗もせずこちらを見上げたままのヴェネチアーノはまた諭す様に言った。
彼の細い首にかけていたロマーノの両手に彼がそうやって言葉を発する度に微かにその喉の震えが伝わる。


「…そんな事…無い…お前さえ、居なきゃ、俺にだって…俺だって…」
「…何があるの…?兄ちゃん一人になってそれで…それからどうなるの?」
「…なに、が」
「俺がいなくなって…ねえ、そしたら兄ちゃんには誰がいるの?」


 ねえ?
そのヴェネチアーノの唇がそのまま口端を上げて微笑んだ様に見えてロマーノは背筋がゾワリと粟立つのを感じた、目の前の弟が怖いと思った。
気持ちが、悪い。
瞬間、ピイーンと耳鳴りが頭の中に響いた、まるで何かの合図の様に一気に現実に引き戻されぐあんぐあん、と脳を揺らされる。
ぐあんぐあん、衝動に駆られた、ぐらんぐらん、ぶれた視界と共に。


「…う、るせえ」


 呟いてかけていた首にゆっくりと手に力を込めると、ぐ、とかう、とか苦しげな濁音が静かな部屋に響いた。
折れるんじゃないか、死ぬんじゃないか、こんな事に意味が無いなんて事は当にわかっているのに、そう思いながらも何かが怖くてまたグググ、と力を込めると微かにその喉が震えた。
それからヒュウ、と口から空気が漏れた後にヴェネチアーノはロマーノの事を呼んだ。
兄ちゃん、ただ、兄ちゃんと潰れた声で苦しげに。
そしてヴェネチアーノは掠れた小さな声で続けた。


「苦し、い、の…?」


 首を絞められて、苦しんでいるのはむしろヴェネチアーノ自身だろうに。
その問いに驚き思わずハア…?と出た声とともにぶれていた焦点が合い、ぼやけて見えていたヴェネチアーノと目が合った、カチリと。
そして吐きだされた言葉の意味を思い出して思わず「馬鹿じぇねえの」と出しかけたその言葉を飲み込んで胃まで落とすと、ロマーノは何故だか酷く辛いと思った。
首を絞めているのは自分なのに、何故だか、苦しいと。
思った途端に堰を切った様に溢れ出した涙が、ロマーノの頬を伝いヴェネチアーノの頬にボタボタと流れ落ちる。
悲しい、苦しい、怖い、どうしよう。


「ごめん、ごめん…ごめんなさい…」


 助けて。
一気に冷めた頭の中でこんな事は止めようと必死で思っているのに何故だか彼の首を絞める腕の力は止まらない。
ロマーノは、「嫌だ」と呟いた、助けて。
どうしようもないどうしようを何度も繰り返して、出そうになる嗚咽に唇をきつく噛み締める、そして気付いた。
違う、こんな事、ほんとは望んでいないんだ、と。


「泣かないで」


 出始めた嗚咽をこらえながら必死に、嫌だを繰り返していると、ヴェネチアーノの声が聞こえた。
その不意に聞こえた声は首を締めている筈なのにやけにハッキリと掠れもせず暗い部屋に響いた。


「俺も悲しくなるから、泣かないでよ」


 その声は明らかにヴェネチアーノの物なのに見下ろしている彼は未だ苦しげな呻きをあげている。
訳がわからずハッ、と声を漏らすと苦しげにヴェネチアーノが伸ばした手が頬に触れた。
その手がやけに暖かい気がして――…





 目を開けて数回瞬きをすると、ツゥと頬を冷たい液体が伝わった。
視界が安定して先程の光景が夢だと気付く。


「兄ちゃん!気付いた!?」


 頬をブランケットで拭おうと手を伸ばした途端ヴェネチアーノがよく分からない擬音と共に抱きついて来た。


「な、いきなりなんだ!コノヤロー!」
「兄ちゃん、良かったあああ!兄ちゃん魘されてたんだよ〜泣いてたんだよ!」


 ぎゅうぎゅうと抱きついて来るヴェネチアーノはそのまま「泣かないで!!」と自分こそ泣きながらぐしゃぐしゃの顔で言った。
暖かいヴェネチアーノの手がロマーノの体に触れる。


「………なんて夢見てんだよ…」


 ジットリと汗をかいたシャツがベタついて気持ち悪い。
同じ様に汗をかいている手を握りしめると上手く力が入らなかった上に酷く冷たかった。
本当になんて夢、見てんだよ。
ゆっくりと震える息を吐くと、ベッドサイドのライトに当たったヴェネチアーノの首が見えた。
その折れそうな細い首に、その白さに、吐き気が込み上げた。


「…ごめん」

 呟いたら、また涙が一筋頬から零れ落ちた。












FIN


作品名:首絞め苦しめクライ夢 作家名:萩野