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【弱ペダ】(サンプル)Devil Knows Me

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「医薬品リストの提出がまだの者はいるか?」
 福富が部室を見回す。ちらほらと手が挙がる生徒達がいた。高校の自転車競技でも大会によってドーピング検査が行われることがあるため、ハコガクでは自転車競技部内で独自にリストの提出を義務付けている。治療などで致し方ない場合を除き、禁止されているものを迂闊に摂取しないのは大前提。その上でリスト提出は勿論のこと、記載ミスや医師による証明書の添付漏れ等があった場合、失格、出場停止になる恐れもあるからだ。
 荒北はベンチにだらしなく座ったまま、部活前のミーティングに集まった部員たちを見つめていた。
「医師の証明書が必要な薬については、大会ごとに提出が必要だ。自らも把握して、忘れずにもらってくるように心がけてほしい。では、練習開始」
 福富の言葉に部員たちが外回り練習のために部室を出て行く。何人かは、福富の所へリストの紙を提出していった。その内の二、三人のリストに福富が目を落とす。
「お前たち、常備薬を処方されていたか?」
 福富が固まって提出してきたその部員たちを呼び止めた。
「え、あ、はい……」
 呼び止められたのは全員二年生だ。彼らはおっかなびっくりと言った風に答える。
「どうした?」
「い……、いえ……」
 福富が重ねて尋ねると、おどおどし始めた。三年とは、部長とはそんなに怖い存在だっただろうか?
「寿一、二年いじめちゃダメだよ」
「む……」
 見兼ねたのか新開が福富の肩を叩く。
「うむ、安心しろ、福はこうみえても心優しい良いヤツだぞ」
「尽八……」
 新開とは反対側から福富を挟むようにして、東堂が前髪をはらりと払いながら笑う。
「何、噛み付いたりせんから、言いたいことがあるなら堂々と言うが良い」
 モデルでもないのに東堂がポーズを決めながら、二年生を説得する。
「あ、いえ……。大丈夫です」
 とは言え、東堂と新開の言葉でも安心できたようでもない。
「そうか。練習でどこか調子を崩したとか、そう言うことではないのならいい。因みにこれは何の薬だ?」
 福富がリストを見ながら尋ねる。
「え……、と。あ、アレルギーで……」
「そうか。三人ともか?」
 躊躇いがちに彼らが頷いた。
「判った。行っていいぞ」
 福富がバラけたリストの束を纏めなおす。萎縮した二年生たちが「失礼します」と挨拶をして出口へ向かった。
「なァ、福ちゃァん。アイツ、身体でかくなったんじゃなァい?」
 荒北はその後姿を見送りながら、その内の一人の印象が違うなと思って福富に呼びかける。
「トレーニングの成果じゃないのか?」
 新開もちらりと部室を出て行く彼らを見て答える。
「ふーん」
 とは言え、特別答えを期待していなかった荒北は、そんなもんか、と思う。
「不満そうだな、荒北。お前の言うことを真に受けていないワケではないぞ」
 東堂が宥めるつもりか酷く真面目な顔で言う。
「っゼ。別に不満だとか思ってねーしィ」
 不満な調子を乗せただろうか。荒北はいつもの調子で東堂にやり返した。
「ナニ、心配せんでも福も気にかけるだろう」
「っゼ! だから別に不満じゃねーって!」
 バンバン、と背中を叩いてくる東堂へ憎まれ口を叩くが、東堂には何故か暖簾に腕押し、荒北が空回っていると言った感じになってしまう。それに、荒北が東堂に絡んでいるのでもなく、むしろ東堂に絡まれていると言う感じなのに。不満があるとすれば、それだけが不満だ。
 新開の返答も福富が何も言わなかったことについては不満ですらない。医薬品リストの提出時には何故か一種の緊張感が漂う気がする。その空気に当てられて、そんな気がしただけだ。確たる証拠すらない。むしろ、自分の印象が間違っていると確認したかった気すら、する。
「荒北」
 ヘルメットを手に部室を出ようとした荒北に、福富が声をかけた。
「気にかけておく」
「止めてくれヨ、福ちゃんまで!」
 荒北が思わず頭を抱える。
「さ、練習行こうぜ」
 新開がぽん、と肩を叩いて笑った。



「俺、ちょっとタイヤ見てくる」
「おー」
 新開が店の反対側を指差して歩み去る。荒北はそれを見送って、ハンドルに巻くバーテープやチェーンの洗浄剤等を見ていた。
 午前中だけで練習が終わった週末のことだ。
 荒北と新開は午後から街に出て自転車関連の買い物をしに来ていた。と言いつつ、本音はなかなか二人きりになれない毎日に降って湧いたような逢瀬の機会を生かそうと言うつもりもあった。
「やっぱいーヤツはタケーわ……」
 荒北は自転車メーカーのロゴが入ったバーテープの箱を棚に戻す。目的別の素材に応じて、値段もピンからキリまで種類がある。レースや練習で荒北が求めているのは、グリップ力と弾力性、振動軽減、そして耐久性だ。その全てを求めれば、四千円くらいになってしまう。毎日使っていれば幾ら耐久性が高くても、性能を保てる期間は短くなる。だが、メンテナンスを怠れば、すぐに自分のパフォーマンスに跳ね返ってくる。値段と質で折り合うところを見つけるのはなかなか難しい。
 財布の中身と相談しながらどれが良いかと悩む荒北の傍を、誰かが通り過ぎた。
「今行きます」
 その声に聞き覚えがあって、ふと流れた声を追って振り返る。と、先だって荒北が「随分急速に筋肉がついてきている」と感じた後輩が店を出て行くところだった。ヘェ、アイツも来てたのか。むくむくとどこに行くのだろう、と言う興味と、もしかして、と言う若干の疑いを覚えた。
 だが、瞬時に冷静になる。僅かでも疑う気持ちがあるってことは、やはり先日の部室でのやり取りに荒北自身納得していなかった、と言うことだろうか。
 ふん。
「東堂の言葉、当たってたかもねェ……」
「何が当たってたって?」
 急に新開に声をかけられる。
「……ックリさせんじゃねーヨ!」
「悪い悪い。で、どうしたんだい?」
 新開の笑顔に、なんだか毒気が抜かれてしまう。はたと正気に戻った自分が恥ずかしくて、小さく舌打ちをして、頭をガリガリと掻く。全く、自分がここまでになるとは思いもしなかった。誰かを好きになったことはあったはずだ。それでも、付き合いたい、相手が欲しい、そんな気持ちになったことはない。好意も憧れや遠くから眺めているアイドルや芸能人とあまり変わらないものだったようにも思う。加えて、自分とは縁遠いとも思っていた。