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たなびくスカート

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「……おい、」
「…………えっ、ぁ、なっ…なんだっ?」
「ガン見してんじゃねえよ。スケベ」

源田はその言葉の意味を理解するまでに少しばかりの時間を要したようで、最初きょとんとした後、みるみるうちに頬が紅潮し、白いタオルの掛けられた首まで赤く染まる。
その不名誉な呼称を撤回させようと、必死に口を動かし何度もどもりながら否定の言葉を吐くが、いくら否定しようとも先程風でめくれた女子のスカートを見ていたという事実は変わりようがない。
見てただろうが。と追い打ちを掛ければ源田はもう否定するのを諦めて、真っ赤な顔のまま、俺から逃げるようにタオルに顔を埋めた。

「だって……見るだろ、普通……」
「言い訳すんなよ」
「めくれてたら見ちゃうだろー……」

タオルに口を押し当てているせいで不明瞭でもごもごとした声。これがKOGと呼ばれている男なのだろうか。
そのまま「俺がめくったわけじゃない」と続けざまに言い訳を重ねる情けない背中に溜息を吐いて、先程源田の見ていた方向に目を遣ればさっきの女生徒の後ろ姿が小さく見えた。
羞恥心に耐えかねてあの場を離れたのか、元々ただの通りすがりだったのかは分からないが、その後ろ姿のシルエットの脚は確かに綺麗な形をしていると思った。
俺はそれに欠片程の興味も持てないが、源田はあんなのが好きなのかと思うと少しばかりあの女子が羨ましくもある。

「大体よぉ、パンツならいっつも更衣室で見てるじゃねえか」
「それは男のだろ!大伝や寺門のパンツなんて……っいや、不動、この話はもう終わりにしよう」

そう言って源田はベンチからすっくと立ちあがると、赤い顔のまま俺の返事も聞かずにボールを蹴り出してフィールドに戻って行ってしまった。


『だって……見るだろ、普通……』

汗で落ちかけたフェイスペイント。恥ずかしさで若干乱雑になった口調と真っ赤に染まった横顔。
思い出すその言葉は源田がとても“普通”の男子生徒であり、絶対に俺のものにはならないという確固たる証拠でもあった。

「……なら、俺は普通じゃねえのかよ」

答えを待つまでも無くそんなことは己が一番分かっている。
肚の中にあるもやもやを押し流す様に源田のボトルに入っていたスポーツドリンクを飲み干して、あいつが先に行ったフィールドに戻るべくベンチから腰を浮かせた。
目敏くそれを見つけた源田が遠くから文句を言ってくるが無視する。
ボトルを横取りした本当の意味なんてお前は知らないくせに。



振り返ってもあの脚の綺麗な女生徒はもう見えなくなっていた。
作品名:たなびくスカート 作家名:桐風千代子