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On s'en va ~さぁ、行こう!~ 後編

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8.『Je viens!』(今行くよ!)


「グハッ!」
サガのアナザーディメンションの力で空間に歪みができ、吐き出されるようにミロは地面に叩き付けられた。
仮にも黄金聖闘士。地面に投げ出された程度では痛くも痒くもないが、サガの攻撃的小宇宙を浴びた体ではやはり少々堪える。
「痛ててて……」
頭を押さえつつ、ゆっくりと起き上がる。サガの話では、自分が落とされた場所はモナコらしい。
とはいってもミロはフランス語ができないので、看板などが立っていてもモナコと確認する手段がない。
既に辺りは夜の暗闇に包まれており、自分が今どこにいるのかもわからない。
「困ったな」
と、ミロの目の前に南欧プロヴァンス風の瀟洒な二階建ての建物。
そう、ミロはミスティの自宅の前に落とされたのである。
「英語が通じるといいけどな」
ミロは小声でつぶやきながら、ミスティ宅のインターホンを押した。

シュラとカミュを送り出したミスティはクレープのトマトソースがけの夕食を終えた後、リビングでハーブティーを飲みながらテレビを見ていた。
コーヒーは刺激物で肌によくないため、極力飲まないようにしているのだ。
ニュース番組を見ながら、「シュラ様もカミュ様も今夜は帰ってこなければいいな……」と非常に同感できる事を考えていると、玄関から『ドスッ』と何かが落ちてくるような音が響く。
空間が歪んだような強大な小宇宙、そしてどこかで感じた事のある小宇宙が、その音と同時にミスティの感覚に訴えてくる。
「この小宇宙は……」
天蠍宮の守護者の小宇宙に至極似ていた。いや、そのものだった。
「何でこんな所にミロ様が来るのだ?」
まさかカミュの小宇宙を追い掛けてここまで来た訳ではあるまい。
ともかくここはジッと息を潜めて、ミロが玄関の前から立ち去るのを待つ。
だがその願いはもろくも崩れ去った。
ピンポーン。
「エクスキューズミ~~!!!」
あの美声が、インターホンのスピーカーを震わせる。
ミスティはジェイソンに追い詰められるヒロインの気持ちがよくわかった。
『頼む、来ないでくれ!どこかに行ってくれ!!』
小宇宙と自分の気配を限界まで消し、ミロが諦めて去ってくれるのを祈るように待った。
「エクスキューズミ~~~!!」
再びチャイムを押す音。そしてスピーカーから流れる脳天気な声。
「……留守か」
諦めたのかミスティ宅から去るミロ。いない家のチャイムを何度も押したところで、無駄な労力だ。
ミスティは小宇宙が去っていった事でほっと息を吐くと、ハーブティーをもう一杯口にした。
何故に白銀風情の自分がこんなに黄金聖闘士の面倒を見なくてはいけないのだ。
そもそも、年下にたかる時点で何か間違っていると思わないのか?
「今日はもう休もう。夜更かしは美容の敵だ」
ソファーから起き上がり、玄関に鍵をかける。
モナコは治安がいいので鍵等かけなくても大丈夫なのだが、今夜は、今夜だけは、しっかりと施錠をして眠りに就きたかった。
「Bonne nuit(おやすみなさい)」
家中の灯りを消して、今夜はもう何も起きない事を願いつつ寝室に下がる。
夜に十分な睡眠が取れないと、肌のコンディションが非常に悪くなるのだ。

さて、ミスティ宅から去ったミロは小宇宙を最大限に集中させ、このモンテカルロ市内にいるはずのカミュの小宇宙を探った。
一応これでも黄金聖闘士である。市内に滞在する人間を探す事くらい、本気でやればどうにかなる…はず。
「む……」
全神経を集中させて、親友の小宇宙を追う。
今回ミロの運がよかったのは、ミスティの家の裏にあるオテル・ド・パリからカジノが集中しているカジノ広場まで大して距離がなかった事だ。
つまり、ミロの未成熟な小宇宙探索でもカミュの気配をつかめたのである。
「カミュの小宇宙…南に200メートル…あの馬鹿でかい建物の中からだ」
オテル・ド・パリから見える、モナコでも名高いグラン・カジノ。
その中にカミュがいる!
ミロはひゃっほーーーいと奇声を上げると、グラン・カジノへ駆け出していった。
そう、もうすぐカミュに会える!カミュとモナコで会える!生活費も借りられる!
ミロの頭の中はそれでいっぱいになっていた。