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兄さんの秘密

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没パート


ことの始まりは一週間ほど前にさかのぼる。
アイオロスがスニオン岬に続く海岸線を歩いていると、砂浜で乗馬の練習をしている少年に会った。年の頃は星矢達と同じくらいだろうか。
小柄ではあるが、闊達さを感じさせる目の輝きが印象的だった。
「……ほぉ」
巧みに馬を駆る仕草に、思わず見入る。
アイオロスは馬が好きだ。
自分が半人半馬の射手座の聖闘士ということもご多分にあるのだろうが、アイオロスは馬が好きだった。
砂を蹴り上げ、波沿いの浜を疾走する馬の姿は特に馬好きでなくとも、心を奪われる何かがあった。
そのアイオロスの視線に気付いたのか少年は手綱を引き、アイオロスの前にやってきた。
「お兄さん、馬が好きなの?」
突然の問いかけに、虚をつかれたように目を丸くするアイオロス。
だがすぐににっこりと笑うと、
「好きだ」
「俺も好きだよ」
馬から下りる少年。愛おしそうに馬のたてがみを撫でながら、
「これ、うちの牧場の馬なんだ。名前は、ウラヌス」
「男爵の愛馬のような名前だな」
アイオロスも近寄り、そっと馬の背に触れる。馬はひどく気難しい生き物で、人間を見るのだが。
初対面のアイオロスに対しては、軽く鼻を鳴らすだけであった。
目を丸くする少年。ウラヌスの態度が予想外だったらしい。
「めっずらしいなぁ。ウラヌスが嫌がらないなんて」
「そうなのか?」
「うん。ひどいと、ウラヌスに蹴られるし」
お兄さん、馬に好かれるタイプなんだね。
少年はしみじみと、しかしどこか嬉しそうにそう話す。
馬に好かれる……というのは、あながち間違っていないかもしれない。
すると急に少年はアイオロスの上着の裾をつかむと、こう誘いをかけてきた。
「お兄さんさ、馬のお産に立ち会う気ない?」
「馬のお産?」
目を瞬きさせるアイオロス。
聖闘士の彼には、なかなか馴染みのない言葉である。
少年は頷くと、本来馬の出産シーズンは3~6月なのだが南半球ではその限りでないこと、
父親がオーストラリアの知人から一月半前に譲り受けた馬が孕んでいたこと、その馬がもうすぐ出産しそうなことを、子供なりに説明する。
「秋に馬のお産やるなんて初めてだから、本当に参っちゃったよ。
2月とか3月とかなら、何度かあったけど……」
「君が取り上げるのか?」
「うん。10歳の頃からお産には立ち会ってきたからね。そういう意味じゃ、ベテラン」
自慢げにサムズアップしてみせる。だが入院した祖父の看病のため、いつも一緒にいてくれる父がお産には立ち会えない。
それで心細くなり、アイオロスに声をかけたようなのである。
と、少年は自己紹介していないことに気付き、慌てて名乗る。
「俺、レグルス。15歳」
「私はアイオロスだ。よろしくな」
がしっと手を握る。ここで会ったのも、何かの縁だ。
自分がここで散歩をしていたのも、馬を走らせていた少年と出会ったのも、お産の立ち会いに誘われたのも、きっとアテナのお導きなのだろう。
「ああ、出来ることは何でも協力しよう」
「ありがとう、アイオロス」
少年はにっこりと笑うと、アイオロスに連絡先を聞いた。
生まれそうになったら、連絡するというのだ。
「父さんがじいちゃんの看病で出たり入ったりだからさ。こういう時に大人の人がいてくれると、俺も心強いんだ」
「そうか」
流石に人馬宮の電話番号を教えるわけにはいかないので、自分の携帯電話の番号が書かれたメモを渡す。
「自宅には電話を引いていないので、何かあったら連絡を入れて欲しい」
「ありがとう。生まれそうになったら電話する」
再び馬上の人となったレグルスは、軽く馬の腹に蹴りを入れると、手を振りながら去っていった。
「アイオロス、またね!」
子供らしい無邪気な笑顔を振りまきながら。
作品名:兄さんの秘密 作家名:あまみ