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冷えた指先を、誰かの体温が包んでいる。
浅くなった眠りの中でそれを感じると、体温の輪郭を確かめるかのように手を動かす。
大きく温かく滑らかな手が、自分の手を温めている。
こんな事をするのは、世界にただ一人しかいない。
「シオンさま」
覚束ない様子で呼びかけると、ベッドサイドのスツールに腰掛けて弟子を見守っていたシオンが、それはそれは情愛を感じさせる表情で、キュッとムウの手を握った。
「目覚めたか」
「ええ。ずっとそこにいて下さったのですか?」
「お前が心配だったからな」
さらっとこういうことを言えるから、この人はズルい。
嬉しいのだけど、一人前に扱ってもらえないような気がして何か不満で、でも子供の頃はこんな風に甘えたこともあったかなと懐かしくなって、しかしもう二十歳で、聖闘士最高位の黄金聖闘士で、もう弟子もいるのに、子供扱いされたのが恥ずかしくて。
それでも、やっぱり気にかけてもらっていたのが、ただただ嬉しくて。
けれども、素直に嬉しいと言うのが何だか恥ずかしくて、口から出るのはいつも通りの言葉。
「私はもう大人ですよ。大丈夫ですよ、シオン様」
「だが、目覚めた際に私が居る方が、お前も安心できよう」
綺麗な口元に浮かぶ、物言いたげな笑み。
シオンは、全てわかっている。
……まったく、この人は本当にタチが悪い。
でも、あったかい。
ムウはベッドから半身を起こすと。師の顔をじっと見た。
子供の頃はしわしわの、250年近く生きた老人であったが、今のシオンは自分よりも若い18歳の肉体である。
しかし、その中身はあの頃のままだ。
『この方は……』
ムウは親というものを知らない。
だがもし自分に父や母がいたとしても、シオン以上の情愛を与えてくれるとは思わない。
シオンがムウに与えた愛情は、それほどまでに強いものだった。
それなのに、修業時代は何故自分には親がいないのかと、シオンを困らせた事もあったように記憶している。
(戻れるなら、その時の自分を殴ってやりたいとムウは思う)
『お前には親がおらぬが、案ずるでない。私が父の分も母の分も面倒を見てやろうぞ』
そう苦笑して、しわしわの大きな手で頭を撫でてくれた。
上手く誤摩化されたような気分だったが、今思うにその言葉は嘘ではなかった。
「シオン様」
「何だ」
わずかに首を傾げ、シオンが顔を覗き込んでくる。
ムウはシオンの若々しい顔を眺めながら、小声で、だがはっきりとした口調で告げた。
「シオン様がいて下さって、本当によかった。シオン様の弟子で、本当によかった。そして……」
空いている方の手で、シオンの手に触れるムウ。
その手には、体温が戻っている。
「シオン様が生きていて下さって、本当によかった」
「ああ、私はここに居るよ」
にっこりと笑って、ムウの頭を撫でるシオン。
その手付きは、ムウの記憶の中にあるものと、何ら変わらなかった。

……だが、教皇と白羊宮の守護者が、修業時代の気持ちに戻っている頃。
金牛宮から戻ってきた貴鬼が、大好きな師匠と大好きなおじいちゃんが醸し出している、妙に閉鎖的な空気になんだか家に入り辛くなってしまい、中に入っていいのか、それともアルデバランのところへ戻ろうか、玄関先で悩んでいた。
「……シオン様、ムウ様に甘過ぎなんだよなぁー。そりゃ、ムウ様が可愛いのはわかるけどさー」
子供とはいえ、貴鬼もなかなか苦労が多いのである。
作品名:Obit 作家名:あまみ