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時には牡牛のように

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闘技場から、威勢のいいかけ声と拳を打ち合う音、小宇宙が弾ける音が聞こえる。
何事かとのぞいてみると、場内でアルデバランが青銅聖闘士や雑兵に稽古を付けていた。
「あいつもよくやるよ」
観客席でその様子を眺めていたくわえ煙草のシュラは、煙草から紫煙を立ち上らせながら同僚の働きっぷりを眺めている。
アルデバランは真面目だ。なおかつ懐もでかく、雑兵たちからの受けもいい。
しかも力加減をわかっているので、聖衣などもあまり壊さない。
部下にしても、同僚にしても、理想の稽古相手だった。
「今日の稽古当番はアルデバランだったか」
中を覗きにきたアフロディーテが、煙の臭いに柳眉を顰めながらシュラに言う。
シュラはアフロディーテに気付くと、携帯灰皿の中に煙草を捨て、
「いや、本当はアイオリアだったのだ」
「それがどうして」
「……ムウが一昨日、ジャミールから聖衣をサルベージしてきたばかりなんだよ」
「ああ」
それでアフロディーテは納得した。
ただでさえ聖衣の修復が忙しいのに、アイオリアが稽古でまた青銅聖衣を壊してくれたら。
白羊宮の食卓は、非常にプアーになる。
それを危惧したシオンは、稽古係聖闘士のシフト入れ替えを急遽行ったというわけだ。
「急にお役御免になったアイオリアは、少々苛ついていたがな」
「アイオリアもアルデバランに稽古を付けてもらえばいい。彼も少しは力加減を覚えるべきだよ」
「……アイオリアは空気を読まず、本気で撃ってきそうだぞ」
「それもそうか」
二人の黄金聖闘士は、再び稽古の様子を眺める。
他人の稽古を眺めているのは、格闘技を観戦しているようでなかなか面白い。
「それにしても……」
雑兵にも青銅聖闘士にも分け隔てなく丁寧に稽古を付けるアルデバランを見て、アフロディーテは呟く。
「アルデバランには何故弟子がいないのだろうね?性格的に、とても向いていると思うのだけど」
「ああ、俺もそれが気になって、前に教皇に伺ったことがある」
煙草を取り出し、唇にくわえるシュラ。
アフロディーテから白薔薇を食らいそうなので、火はつけない。
ただ口が寂しいので、何かをくわえていないといられないのだ。
「教皇は何と?」
「それがな……」

「アルデバランに弟子を付けぬ理由か?」
白羊宮の夕食に呼ばれた時の話である。
前々から疑問に思っていた事を、シュラは思い切ってシオンに訊ねてみた。
するとシオンは意地悪い笑みを浮かべ、
「サガに訊かぬか。私を屠り教皇の座に就いた後、各聖闘士に弟子の割り振りをしておったのは彼奴だぞ」
「教皇、今度は俺がサガに殺されます」
無表情にそう答えるシュラ。
シオンは少々冗談が過ぎたなと独語すると、しめ鯖に山葵を付けながら語り出す。
「アルデバランは豪放磊落を絵に描いたような好人物で、皆にも好かれておる」
「人間的には、俺たち黄金聖闘士の中で最もビューティフルでしょうね。人間的には」
「強さも……並ぶものなき剛の者よ。シュラよ、お前はアルデバランと戦ったとしたら、勝てると思うか?」
急な問いかけに、シュラはしばし考える。
口の中に入れた筑前煮の椎茸が、地味に美味い。どうしてこんなにムウは、料理が上手なんだ。
ごくりと椎茸を飲み込んだ後、シュラは言葉を選びながら、
「そうですね。五分五分でしょうか?12人は建前上、『実力に差がない』はずですから」
「お茶を濁したな。まぁ、よい。確かに、お前とアルデバランでは五分五分になろうな。いや、アイオリアがアルデバランと対峙しても、相打ちかもしれぬ」
綺麗な箸さばきで、シオンも筑前煮を口に運ぶ。蒟蒻がよく煮えている。
「しかし、な」
シオンの口調が、やや変わる。語調を顰めると、
「戦い方によっては、アルデバランはアフロディーテやムウに負けるかもしれぬ。ああ、シャカやサガはさもありなんであろうな」
「そうですねぇ……」
これまで黙って師と同僚の会話を来ていたムウが、どこか考え込むかのように、
「アルデバランの技は単調なところがありますので、サイコキネシスを駆使すればどうにかなってしまうかも知れませんね」
何となく、話し辛そうな様子ではある。
そこでシュラは得心した。
「……つまり教皇、アルデバランに弟子を取らせないのは……」
「彼奴の人格は、非常に指導者向きだ。しかし、技の性質や、彼奴の特殊攻撃への弱さが、な」
アルデバランは攻撃がハマると十二人中最強クラスの破壊力だが、特殊攻撃にとんと弱いという弱点も併せ持つ。
その弱点を弟子が継いでしまったとしたら……。そして、もし敵がそれを見越して、特殊能力を持つ戦士を多く送り込んできたとしたら……。
「故に、アルデバランが斯様な攻撃に対する耐性をつけぬ限り、弟子は取らせぬ方がよいと思っておるのだが」
「……御尤もです、教皇」
シュラは静かに頷いた。
ついでに、ムウの目の前に飯碗を突きつけた。
そしてムウは、シュラの手首に笑顔で手刀を入れた。


「……と、こういうわけだ。まさか、ムウに手首を打たれるとは……思わなかった」
唇の端で、ぴょこぴょこと煙草が動く。
シュラの体のあちこちから『吸いたい』オーラが噴き出しているが、アフロディーテはさっくりと無視した。
「……成る程ね。教皇の言い分は御尤もだ」
アルデバランはこうして定期的に稽古係になる方がいいのだろう。
これ以上搦手攻撃に弱い聖闘士を増やしてたまるか!というのが、特殊な攻撃方法も持っているシオンやサガの本音なのかもしれない。
「まぁ、アルデバランはああいう……分け隔てなく沢山の人間に接する方が似合っていそうだから、今のままでもいいのかも知れないね」
アフロディーテは強引にそう結論付けた後、左腕につけたフランク・ミュラーで時間を確認すると、軽く手を上げてシュラに挨拶し、その場から去っていった。
これからグラード財団の仕事に赴かねばならないのだ。
作品名:時には牡牛のように 作家名:あまみ