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仮象

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 ころして、ってゆったって、君は俺をころせないでしょう?
 無機質な瞳でそう問うた。くちびるを不恰好に歪めたままで。俺はそれに些か苛立ちと屈辱を感じ、そんなことないです。と喧嘩腰で応えた。俺はただ、手段とか、状況とかでころせない、だけで、あなたが望んで、能動的にその状況を作ってくれるのならば、俺は喜んでころしますよ。だって、意識の問題ではない。目の前のそのひとは、ひどく面白そうに目を歪めた。へえ、そう、ふうん。先程よりか、幾分高くなった声色で、そんな気のない返事をする。しかし、その目は相変わらずの興味が剥き出しだ。ぎらぎらと狡猾な目が光る。じゃあ、今、俺を、ころして、みてよ。
 両手を軽く挙げて、いかにもな笑顔をつくるその顔に、何故だかひどい悪寒を感じた。興味本位。まったくそれだけだ。俺はもう寧ろ、意地のような感情に突き動かされて、いいですよ。と呟き、そのひとのポケットからナイフを取り出して、その白くて細い首に突きつけた。それなのに、そのひとは尚更可笑しそうに、にこにこと笑ったままである。、無理だよ。君には無理。だって君は、俺のことが、すきでしょう?
 暢気に笑顔でのうのうと言い放ったその顔が、侮蔑の色を浮かべていることに気がついた。途端、気持ち悪いほどの苛立ちが込み上げて来て、半ば衝動的にそのナイフを押していた。しかしその刹那、ちらりと視界の隅に映ったそのひとの、眉を顰めた苦悶の表情が、物凄い勢いで俺の頭を急速に冷やした。
 たらたらと、生白い首から、真っ赤な真っ赤な血が滴る。それは量的に見ればそれほど、大したものではなかったのだけれど、俺は、何よりも、自身の行動に青褪めていた。ほうら、ね?駄目だった。所詮無理なんだよ、君には。君には、俺は、ころせない。
 そのひとは力の抜けた俺からナイフを奪って、とても扇情的に、まだ残るその血液を舐め取っていた。俺はその様から、不思議と目が離せずに、ただただ凝視するしかなかった。な、んで。なんでって、それは、君は、俺のことを好いているんだよ、無意識的にね。ちが、う、俺は、あんたのことなんか、好きじゃ、ない。ふうん、まあ、それならそれでいーんじゃないの?そのひとは、もう興味を失ったとばかりに、俺に一瞥をくれてやって、そして、くるりと後ろを向いた。その背を見て頭の中では、今ならころせる、と、判っていたのに、どーしてだってその首筋に、俺の両手は伸びなかった。そのことが殊更その詭弁を裏付けているようで、絶望が。
 ああ。と、そのひとはまるで今思いついたかのように、付け足しのように、こちらを向いた。それは若しかしたら演技かも知れなかったし、本当に、今この瞬間に思い浮かんだことかも知れなかった。とにかく、どちらにしたって俺には、悪い予感しかなかったのだけれど。その、薄いくちびるが揺らぐ。それは。
 でも、安心して、俺は、君のことを、愛しているから。

(そんな、嘘を吐く素振りで、言うな。)
作品名:仮象 作家名:うるち米