デート
「小さいお前に、ずっと向こうの、東の海を見せてやろうとしたんだよ」
「ふうん」
「でもアントーニョが、・・・ねえ、お前の好むように、シナモンを強くしてみたのさ」
「へえ」
フランシスは、ロヴィーノが生き返って、とげで痛んだ指が空で迷ってから、一等にチェリーの込まれた焼き菓子を取るのを、寄って眺めた。うまくもなんともない顔でも、ひとさし指があれこれ言って、かれこれ年間フランシスを慰めた。
「そう・・・アントーニョががんばるものだから・・・それからはアルザスも、レマンも、なんにもないままだっけ」
唇からはみ出た油を舐めとって、まつげを上げると、虹彩を読むフランシスに当たった。
次はショコラを取るつもりだったがよして、ままにいてやった。
夕暮れでないのに、ロヴィーノの瞳にはとばりが降りて、よく編まれているからどうにも透かさない。アントーニョはそれを、生成りとして愛している。フランシスは教えてやらない。
フランシスの頬はきめが粗い。柔らかだったころ、ロヴィーノは生まれていない。覗かれて平気なのは、フランシスがあんまり早く生まれたからだと思っている。ロヴィーノは子牛の皮のようになめされて、静かだった。
ラフランのテーブルクロスが、ロヴィーノの影になじむまで待って、額に鳥のキスをした。
「待たしたのな。メルシー。もっと甘いのおあがり」
「もういいや」
「そんなら詰めてやるよ」
「プラムのがいい」
「そうしてやろう。ロヴィーノ」
ポットをキッチンに戻すふりで椅子をひいて、またポットを置いた。
「まだ夜はこない」
早足で鏡台にかがんで、髪の流れを確かめながら、決め付けた。
「新しいジャケットをこしらえてやろう、それからボートに乗る」
フランシスを追っていたロヴィーノは、ティースプーンに移った。しらじらと光を返している。
「フェリシアーノが来るんだっけ」
「お前とふたりきりさ、コースじゃ山のあらわれもいいようだよ」
「じき雨だもの」
ロヴィーノが壁時計を向いた。フランシスは鍵をもてあそぶのをやめて、小さな頭を目で撫でた。
「摘まなきゃだめになってしまう」
まぶたに口付けをしてさよならを言った。ロヴィーノのとばりに星を見つけて、フランシスはウインクでロヴィーノを待たせると、ターンしてじゅうたんを踏んだ。銀が曇ったライカ。ロヴィーノは平気だった。
「笑わなくていいの」
「そのままでかわいいさ」
「ふうん」
「アントーニョにやるんだ。お前が留まっていることを・・・ウーララ・・・よし・・・教えてやろう」
露出をとらえて、ピントを合わせた。
「愛しているよ」
ロシアのような雲の下で、バラ垣と、病気のロヴィーノをつかまえた。
「これでいけなかったら今度こそ、アラベスクも終わったくらいの、ずっと東にさらってやるからね」
「ふうん」
秋の剪定を教えてから、セアカを送った。門扉の蔓をいじっていると、最初の雨がきた。