二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

誓いを君に捧ぐ

INDEX|1ページ/1ページ|

 
修道院の地下室を出てベルモンドさんが旅立ったと僕が知ったのは、ようやくベットに起き上がれるようになってからだった。
セリーヌ様は怪我もなく御無事であったらしいが、あれ以来屋敷から外に出してもらえないらしい。
たった一晩に起こった出来事に、まだ理解が追いつかない。他の隊員の話に誰もが知るあの英雄の名や、黄土の十字架…といった単語を聞いたが、詳しいことは誰も知らず、あの夜見聞きした以上の情報は何も得られなかった。
魔女や彼の存在自体が秘匿されるべきものであるのを思えば仕方ない。侯爵誘拐事件以来セリーヌ様が頻繁に訪ねたり、部外者のクロエが住み込むようになったり、僕を完全にいじられキャラ扱いにして楽しんでる(としか思えない)ベルモンドさんに、最近ついつい忘れがちだったけど。

僕はベルモンドさんを取り巻いている事情について何も知らない。彼と関わる上で必要以上の知識は与えられてはおらず、時折彼の口から語られる以上には知ろうともしてこなかった。
ゴシップ的な興味に取られそうなことは聞きづらかったし、あの人の性格からしてたずねても答えてくれそうもないと思っていたからだ。いや…、ベルモンドさん自身すら自らの来歴や能力についてどの程度知っていたのか…?

ひとつだけ僕が確かに知っていると言えるのは、任務で地下室を訪れる際の短い時間の中で実際に交流したシィエン・ベルモンド、彼自身だけである。
拷問吏という職業や魔女に対して世の人々が持つ畏怖と蔑みを、事前に全く持っていなかったと言えば嘘になる。
でも会ってすぐにそんなことはどうでも良くなってしまった。
僕が出会った彼は、想像していた人物とは全然違う、常人とはだいぶ異なる感性を持ち、誰にも臆することない上から目線の強烈な変人だった。兇悪犯罪の凶器を愛で、嘘か本気か分からない悪趣味極まりない言説で人を翻弄し、時に課せられた”仕事”を楽しんでいるかに見え、地下室を世界の全てにして満足している。
なのに外の世界の常識や道徳を冷笑しながら、貴族の令嬢の気丈さに分かりづらくも敬意を払い、人生を奪われた女に気紛れのように手を差し伸べる。
凄絶な生い立ちを持つ彼が心を許していたのはリヴィエール・サン・ミシェルの副院長と幼馴染みの修道士だけだったのだとしても、露悪的な言動と裏腹に、彼は常に周囲の者が傷付かないよう守っていた。 

たった一人友人と認めていた相手に欺かれていたことを知った時の彼の心中を、僕は想像できない。地下に閉じ込めながら魔女の力を利用し、意に沿わぬ行動を起こした時には彼を殺す側の者である僕を、本当はどう思っていたのか確かめようもない。でも例えあの人にどう思われていようとも、僕は僕を守ろうとしてくれた彼を友と呼ぶだろう。

ずっと考えている。
あの夜に自分に何が出来たか。
起こったこと自体は変わらなかったのか。もっと僕の剣に実力があれば、少なくともベルモンドさんを兇刃から守ることは出来ていたのではないか。
過ぎてしまった夜に答えなんて出ないけれど、もしもこの先いつか再び彼とまみえる時が来るのであれば、僕は強くなっていたかった。
その時は足手まといになんてならないで彼の力になりたい、隣に並び立てるようになりたいと。

あれから僕は可能な限りの時間を鍛練に費やしている。
器用じゃない僕に出来るのは、ただ愚直に努力することだけだ。
一日の終わり、疲れた体をベットに休める時には彼の顔が浮かぶ。あの人は今、一体どの空の下にいるのだろうか。
きっとあの人はどんな出来事が起こっても、打ちひしがれなどはしていないのだろう。
僕もあなたのように。今はこの場所で、再会する日のあなたの為に、強くなることを心に誓おう。
作品名:誓いを君に捧ぐ 作家名:あお