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なんどのぼうけん ごじつだん

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シオンは作業場に入った。
中には修復中、点検中の聖衣が綺麗に並べられており、昨日点検に入った一角獣座の聖衣もきちんと置かれていた。
「ふむ」
シオンは唐突にその前に座り込むと、その痛んだ聖衣に触れた。
シオンには聖衣に触れると、聖衣の持ち主の記憶を読んだり、聖衣に宿るかつての所有者の意思と会話できる能力がある。
その能力を知るのは、弟子のムウと親友の童虎のみだ。
故に童虎は、今でもシオンに聖衣を触られるとドキッとするらしい。
さて、シオンの指先が聖衣に接触した途端。
ユニコーンの聖衣が薄ぼんやりとした光を放った。
そして現れたのは、邪武によく似た少年の姿。
シオンは懐かしいものを見たかのように目を細めて笑うと、一言。
「久しいな」
『ああ、あんたも元気そうだな、シオン。……悪ィ。あんたがテンマと親しげにしゃべってたもんだから、俺までそうなっちまう。
ユズリハはあんたに敬語使ってたみたいだけどな』
「あれは妹弟子だ。けじめのようなものよ」
『でも、シオン様って呼んでたぜ』
「あまりからかうでない。妙なところはテンマに似ておるな……」
軽く窘めるが、相手の少年はやめようとはしない。
『あんたも口調が族長に似てきたぜ?』
「歳を取れば自ずとそうなる。童虎など若い時分から、あのような感じであったがな」
『だった、だった』
少年は笑う。笑った時の目元にシオンは愛しい面影を見つけ、思わずその顔に空いている手を伸ばした。
しかし、相手は触れられない存在であることを思い出すと、手を引く。
「ああ、すまん」
『どうしたんだよ、いきなり。ビンタされるかと思ったぜ』
「うむ、お前の顔が……やはり似ておっての」
それを聞いた少年は驚いたように目を丸くしたが、すぐに照れたような笑みを浮かべて、
『そっか、似てるのか。ユズリハに似てると思ってたんだけどな』
「まぁ、今は子供故、成長すれば顔が変わるやも知れぬ」
『かもな。でも、似てるって言われて嬉しいよ。子孫を作る、残すってのが、ユズリハの願いだったからさ。そしてその子孫をあんたが世話しているなんて、最高じゃん。ユズリハも喜んでると思う』
シオンは妹弟子の顔を思い出す。
かつて自分の前で、“血を絶やさぬために嫁ぐことを決めた”と話したことがあったが、聖闘士になった後もやはり子孫を持つことをどこかで夢見てはいたのだろう。
だからシオンは教皇の座に就いた後、二人の捜索をしようとはしなかった。
ユズリハが聖域に戻らなかったのには理由があると、シオンも察していたからだ。
「ユズリハとは話したことは無かったな。教皇位についてからはな。どうも気恥ずかしくてたまらん」
『あんたもそう思うことってあるんだ』
「ほぉ……聖衣を通じ、もっと秘め事を暴露されたいと申すか」
『うわ、それは勘弁!』
慌てた様子で両手をブンブン振る少年に、シオンは冗談よと笑いかけると、少年に向かって丁寧に頭を下げた。
「今回は私の孫が世話になったな」
『私の孫って、あんた』
苦笑する少年。
シオンには子供はいない。けれども、弟子と孫弟子を自分の子供のように可愛がっているのは、少年も知っている。
でも、シオンのこの言葉に引っかかるものを感じるのは。
『貴鬼は、俺とユズリハの子孫だぞ。孫の孫の孫くらいだろうけどさ』
「だが、私にとっては愛しい孫だ。たとえ、直接の血の繋がりはなくともな」
自信たっぷりなシオンの口調。
少年はハイハイわかりました!と再び両手を挙げると、シオンに告げた。
『俺からも、ありがとう。聖域をずっと守り続けていてくれて。そして、俺とユズリハの命の繋がりを愛してくれて』
「礼を言われる程のことはあらぬよ」
軽く肩を竦めるシオン。少年が知っているシオンとは、やはりどこか違っていた。
姿は若き日のままなのだが、表情やふと見せる仕草が、この教皇が見た目通りの青年でないことを雄弁に物語っていた。
「教皇として聖域を守るのは、極当然のことよ。そして、弟子の弟子をおのが弟子のように愛でるのは当然のこと。私はその職務・責務を成し遂げておるに過ぎんよ」
『お固いなぁ』
少年は物言いたげに顔を歪める。
皆それぞれ己の使命を全うしているに過ぎんのだと呟くと、少年に寂しげな笑顔を見せた。
「あまり作業場にこもって聖衣に語りかけるのも妙故、そろそろ仕舞いにするぞ」
『あ、そういえば、そうだよな。端から見ると聖衣と一人でしゃべっている変な人だよな』
「聖衣を通じて過去を覘かれたいと申すか?」
『ああ、すいません、ごめんなさい』
土下座せんばかりの少年にシオンは苦笑すると、静かに聖衣から指先を離した。
少年の姿が、霞み始める。
『久しぶりに話せて、楽しかったぜ。シオン、またな』
「ああ」
短くシオンが応えると、少年は満足し切ったような笑みを浮かべて完全に消えた。
それはシオンの視界内の話で、他の人間が今の少年とシオンのやり取りの場に同席していたとしても、シオンが一人で聖衣と語らっているようにしか見えない。
聖衣の中に宿る持ち主の意思は、聖衣に愛され、その過去を見ることができるシオンにしか聞こえないものなのだから。
「……ありがとう、耶人」
シオンはどこか懐かしそうに、どこか切なげに目を細めながら、先程の少年の名を読んだ。
ほんの少しだけ聖衣が淡く発光したような気がしたが、それはシオンの錯覚かも知れない。