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水無月彩椰
水無月彩椰
novelistID. 66922
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緋弾のアリア ──落花流水の二重奏《ビキニウム》──

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──こんな世界、と嘆く者。
──面白味の無い日常、と嘆く者。
──生きる理由など無い、と嘆く者。

そんな人間が、この日本のみならず、世界各地に居る。
この世界に絶望し、生きる理由さえも無いと嘆き、なのに、生に渇望する者が。

平安時代……否。日本史上最強の陰陽師と謳われる安倍晴明の血を引く少年、如月彩斗も、それを感じていた。
曰く、面白味の無い、平坦とした日常だと。

だから彼は、なることを決めたのだ。平凡な日常を打破し、非日常に足を踏み入れるために。……その名も、武装探偵。通称『武偵』と呼ばれる国家公務員である。

彼ら彼女らは帯銃帯刀を認められ、民間からの依頼及び数々の事案を受け持つなど、警察に準ずる活動が出来るのだ。場合によっては、『何でも屋』と揶揄されることも少なくない。

武偵こそが、彼が望んでいた職業。日常から一線を画した、非日常の世界観。
それを叶える為に彼は、東京武偵校への入学試験へと足を運んでいるのだ──。







「──そこまで」


無機質な声色を耳に入れた俺──如月彩斗──は、即座に俯せていた顔を上げる。それとほぼ同時に、教室内の筆記音が止んだ。教官が床を踏む音が響き、1人ずつの答案用紙を回収していく。

俺たちが先程までやっていた筆記試験は、東京武偵校の入試問題。

『武装探偵』という国家公務員を育成する高校ではあるが──しかも、帯銃帯刀を認めているとはいえ──名目上は高等学校の入試試験なのだ。偏差値は異様に低いのが難点ではあるが。
しかし、これは自分自身で望んだ道。文句は無い。

答案用紙を全て回収し、枚数を数え終えた教官は、教室内の面々を見渡してから口を開いた。


「この後は実戦試験を行う。|徒手格闘《CQC》形態バトルロワイヤル──と言えば分かりやすいか。……ルールは簡単だ。全部で20階層ある試験会場にお前らを配置するから、お前たちは見付けたヤツを倒せば良い。背中がつくか、もしくは投了した時点で失格だ。んで、徒手格闘、銃剣類を主として闘え。実弾は使用不可能。事前に|非殺傷弾《ゴムスタン》を渡しておいたハズだから、それを使うように」


「じゃあ、さっさと移動しろ」といった教官を横目に、俺は事前に場所を教わっていた試験会場へと歩を進める。件の場所はこの建物と繋がっており、移動にそれほど時間は要さない。
確か、俺の階は……5階、だったか──?

なんて考えていると、後ろからの足音がしなかったにも関わらず、背中に衝撃が走る。

何事かと振り返ってみれば、その主は|神奈川武偵中学校《カナチュー》時代の親友、遠山キンジだった。
……あぁ、そういえばコイツも|強襲科《アサルト》の試験を受けにきたのか。そういえば、そんなことも言ってたな。

ドッキリが成功したような満足気な笑みを浮かべているキンジの腕を払いながら、俺は口を開く。
立ち話していると遅れるから、歩きながら話すか──とも付け加えて。


「んで、キンジ。どうだった、筆記試験は。簡単だったろ?」
「いや、それなりに難しかった……気がするぞ。全部は解けなかったな。彩斗は?」
「こっちは簡単すぎて数十分間は暇だったんだが。おかげで眠いぞ」


真顔でサラリと告げる俺に、キンジは苦虫を噛み潰したような顔をして、


「……まぁ、実戦試験がメインだからな。武偵校の入試は。多少頭脳面に難があっても大丈夫だろ」
「うん、間違ってはないな。だからキンジ、お前は実戦で頑張れよ」


言い、試験会場へと続く鉄製の扉を開く。
俺の視界に飛び込んできたのは、弾痕も艶かしい建設途中とも思しき廃ビル。外見は普通の建物なのに、中がこの惨状とは──何かしらの意図があるんだろうな。屋内戦を想定して造られたとか。

一瞬躊躇いを覚えた俺たちだが、奥にもう1人の教官の姿が見えたこともあり、防弾制服のジャケットを整えながらそこに向かう。
|M500《象殺し》と名高い世界最強のリボルバーをレッグホルスターに帯銃している彼女こそが、今回の教官らしい。

遅れて移動してきた面々も集まり、人数が揃ったかの確認を終えたところで──彼女の口から再度、説明が行われた。


「説明をする前に、ウチの自己紹介をしとくわ。蘭豹っちゅうモンや。ここ、東京武偵校の強襲科の顧問をやっとる。場合によっちゃ、この中で面識を持つヤツもおるんやろな。……まぁ、そんなことはええ。再度、ルール確認を行う」


蘭豹の口から紡がれていく言葉は、事前に聞いていた通り。それを不備がないか頭の中で整理していく。
試験形態は、バトルロワイヤル。目で捕捉した全員を倒せば良い。

|徒手格闘《CQC》及び銃剣類を主とする。実弾は使用不可能。背中が地面につくか投了の何れかで敗北。
この後は各々割り振られた階層に移動し、試験開始のブザーを合図として動け──とのことである。

キンジにお前は何処の階層だと聞いてみれば、どうやら20階らしい。最上階だ。


「せいぜい頑張れよー。個人的には、お前とも闘いたいと思ってるんだからな」
「止めろ彩斗、胃が痛くなる」


そんな短い会話を終えたところで、俺は武器を確認しながら目的の階層へと向かう。

ベレッタM93R、マニアゴナイフ、先祖から譲り受けた日本刀──『|大刀契《だいとうけい》《緋想》』。
無機質な靴音を響かせて、俺は高鳴る鼓動を抑えつつ配置を完了した。


『それでは、CQC形態バトルロワイヤル──始めッ!!』


蘭豹の声が、ノイズ混じりの放送で一帯に響き渡った。