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Paper Cuts 【番外編】

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「うん、お父さんのとこは何だか色々問題があるからって、セイラさんの所にいる事になったんだ」
確かに、あの叛乱からまだ一ヶ月。
事後処理や連邦との和平交渉でシャアも多忙だろう。
それにシャアの後継者となる子供が居たとなれば面倒くさい事にもなりそうだ。
アッシュの命を狙う輩だって現れかねない。
「そうか、そりゃそうだな」
「セイラさん、綺麗だしすっごく優しいから僕大好きなんだ」
「ふふ、そうだろ?久し振りに会ったけど、相変わらず綺麗だったなぁ」
「ねえ、アムロ。セイラさんがお父さんの事を『兄さん』って呼んでたけど、あの二人は兄妹なの?」
「え?ああ、そうだよ。そうか、お前にとっては血の繋がった叔母さんになるんだな」
「そっか…血が繋がってるんだ…」
アムロ以外で家族や血縁といったものに今まで縁の無かったアッシュにとって、それはとても新鮮だった。
アッシュが嬉しそうに微笑む。
「そうだよ」
「アムロと『ルーク』以外に血の繋がった人が僕にも居るんだね!」
「ああ」
『ルーク』はアムロの産んだもう一人の子供であり、アッシュの双子の片割れ。
その腕に抱く事なく、無残にも切り刻まれてしまった子供。
出産後、ルークの遺体を見せられてショックを受けた。もう死んでしまいたいとさえ思った程だ。
しかしその数日後、保育器の中で沢山の管に繋がれながらも必死に生きるアッシュを見た時、守らなければと思った。
そしてその時、研究所の窓から見えた夜明けの美しい景色に涙が溢れた。
まだ薄っすらと星の見える薄紫色の空に、眩い光を放ちながら登る太陽。
真っ直ぐに伸びるその美しくも力強い光に幼い我が子の未来を願った。
『夜明け』と言う意味を持つ『アスラン』、そして、『光導く者』と言う意味を持つ『ルーク』。
生きる事は出来なかったが、アスラン…アッシュを光導いて欲しいと願ったのだ。

ふと気付けば、ウトウトとし始めたアッシュがシーツへと頬を埋めていた。
「アッシュ、風邪引くぞ。こっちにおいで」
「ん…」
アムロはアッシュをシーツの中へと迎え入れ、その小さな身体を抱き締める。
「ふふ、温かいな…」
腕の中の温もりを感じながら、アムロもそっと目を閉じた。


◇◇◇


それから二ヶ月、アムロの怪我も順調に回復し、退院する日が来た。
「アムロ、本当に大丈夫なの?」
まだ少し足元の覚束ないアムロが杖をつきながら歩く姿に、セイラが心配そうに尋ねる。
「大丈夫ですよ。ちゃんと言われた通りにリハビリには通いますし、家の事もシャアが通いの家政婦を雇ってくれたらしいんで」
退院後、二人はスウィート・ウォーター内の郊外にある小さな家を借りて住む事になった。
小さいとはいえ、まだまだリハビリが必要なアムロに家の事全ては出来ない為、通いの家政婦をシャアが手配してくれたのだ。
「そう…でも無理をしてはダメよ」
「ええ、分かってます」
「セイラさん、大丈夫だよ!僕がちゃんとお世話するから!」
嬉しそうにアムロを支えるアッシュに、セイラも小さく微笑む。
「そうね…アッシュ、アムロをお願いね」
「うん!」

家に着くと、そこには笑顔のシャアが二人を待っていた。
「シャア」
「アムロ、アッシュ、今日からここが君たちの家だ」
「お父さん!」
シャアに抱きつくアッシュの頭を撫でながら、アムロがシャアを見上げる。
「貴方の家でもあるんだろう?」
アムロの言葉に、一瞬驚いた顔をして直ぐに満面の笑みを浮かべたシャアが答える。
「ああ、勿論だ」



三人が暮らす家の直ぐ裏手にある小さな丘の上に、今ルークは眠っている。
その丘からは、人工とはいえ美しく光り輝く朝陽を見る事が出来た…。


end


【おまけ】
後日、地球に戻ったセイラから、ミライを経由してブライトの元にアムロの無事が伝えられた。
そして、極秘回線を通じて連絡を取り合った際、全てを話したアムロとシャアはモニター越しに延々とブライトに説教されたのだった。

「ブライトめちゃくちゃ怒ってたな」
通信後、アムロがげんなりとした表情で溜め息を吐く。
「怒っていたというよりは心配していたのだろう?君が行方不明になった後、軍の命令を無視して随分と長い間君を捜索をしていたそうだ」
ネオ・ジオンに秘密裏に保護されたアムロとνガンダムは、その機体の破片すらも見つからなかった。その為、大破していないならばとブライトは一縷の望みをかけて必死に捜索したのだ。
連邦軍により、アムロのMIA認定が下りた為捜索は完全に打ち切られたが、その後もブライトは単独で捜索を続けていたらしい。
「そっか…随分と心配掛けちゃったな…」
「ブライトには話しても良かったのではないか?」
「ん…でもさ。結局俺は二重スパイだった訳だからさ、そんな事にブライトを巻き込みたくは無かったんだ…。あのクソ真面目に部下を裏切るような真似させられないだろう?」
「それはそうだが…」
「まぁ、取り敢えず無事は知らせられたしな。良かったよ。ブライトには今度お詫びに良い酒でも送っておくよ」
そう言いながらも、どこか寂し気な表情のアムロをシャアがそっと抱き締める。
「ブライトに会いたいか?」
「え?ん…まぁ、そうだな。いつか落ち着いたら会いに行きたいかな」
「ふっ、妬けるな」
アムロの顎を掴み、濃厚なキスをする。
と、その時、再び回線が繋がった。
《すまんアムロ、言い忘れた事が…》
そして目の前で繰り広げられる戦友と敵軍総帥の濃厚なキスシーンをアップで見る羽目となったブライトがその衝撃的な光景に悲鳴をあげる。
《アムロー⁉︎》
「わぁ!ブライト!」

後日、二人揃ってブライトの元に挨拶に行ったとか行かなかったとか…。

end

双子の名前は別シリーズのものを使いまわしてしまいました!すみません!
今回、二人のイチャイチャがあまり書けなかったので、気が向いたらまた書こうかな…と思っています。

koyuho
2019.7.3
作品名:Paper Cuts 【番外編】 作家名:koyuho