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『掌に絆つないで』第三章

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Act.10 [コエンマ] 2019年10月1日更新


目が覚めると、幽助の姿が見当たらなかった。
コエンマは寝不足の重い頭に手をやりながら、枕もとの妖気計を見やる。
妖気計は相変わらず、方角を決めかねてグルグルと針を回していた。
蔵馬の行方はわからんままか。
ひとつため息をついたコエンマのもとへ、案内人たちのものと思われる足音が近づいてきた。
「コエンマさまーー!!」
およそ女性とは言い難い扉の開け放ちようで、ぼたんとひなげしがなだれ込んできた。
いつものコエンマなら「騒々しい、一体なんだ」と冷たくあしらう所だが、今はそんなときではない。何かただならぬ変動があったと察し、慌てて彼女らを出迎えた。
「何があった!?」
「冥界の…、冥界の入り口が見つかりました!」
「本当か!?」
冥界玉が流出したからには、どこかに結界の亀裂があったことは明確。コエンマは冥界玉の力を収集する傍ら、結界の調査をさせていたのだ。
「まだ確認できてませんが、亜空間の一部で冥界のパワーを流し続けている場所があることがわかりました!」
「そうか、冥界の入り口と見て間違いないな。ぼたん、ひなげし、そこへ向かうぞ!」
「はい!」
コエンマは二人の案内人を連れて、雷禅の塔を出発した。
直後、森の中から歩いて来る幽助の姿を発見する。彼はどこか呆けたように、おぼつかない足取りでこちらに向かっていた。
「どこへ行ってたんだ、幽助! いや、ちょうどよかった! 冥界の入り口が見つかったんだ、そこへ行くぞ!」
「え…コエンマ? あ、おいっ……」
今度こそ説明の暇はなく、コエンマは幽助に呼びかけながら彼を追い越した。
「冥界の入り口だって?」
幽助はコエンマに追いつき、問いかけた。
「うむ。一刻も早くその入り口を塞がねばならんのだ」
コエンマは問いに答えつつ、幽助の表情を訝しく見た。
「幽助、お前どこに行っていたのだ」
「……蔵馬に、会った……」
「なに! で、冥界玉は!?」
コエンマは思わず立ち止まった。
ぼたんとひなげしもそれぞれ走るのをやめ、同じく歩を止めた幽助に注目する。
彼は複雑な表情のまま、しばらく口を開かなかったが、やや俯きがちに呟いた。
「……妖狐として生きるって……、蔵馬が」
「どういうことだ?」
「こっちが聞きてェよ」
「冥界玉はどうなった」
「説明したけど………、もっかい黒鵺を殺すのかって言われて……なんて言えばいいのか……」
幽助は視線を地に落としたまま、口籠った。
それでそんな顔をしていたのか。
だいたいの状況を察したコエンマは、幽助の頭上にまたしてもゲンコツを食らわせた。
「いで!」
「何をふぬけたことを言っておるのだ、お前は」
「……なんだと、てめェ!」
仕打ちに憤慨した幽助は、コエンマの胸倉を掴み上げた。それでも、掴まれたコエンマは想定範囲内の状況に身構えることをしない。胸倉を掴まれたまま幽助を睨み返して、強い口調で問いかけた。
「幽助。お前は飛影と蔵馬を不幸にしたいのか?」
「な……」
「幸福とは過去ではなく、常に先にあるものだ。このまま飛影と蔵馬が故人を守り通して、その先に待っているのはなんだ? 安穏とした魔界の姿があるのか?」
コエンマは言葉を区切って、その先を幽助が想像する時間を与えた。
冥界とは、コエンマ自身も目にしてはいない未知の世界。その世界が復活するという事態がどれほど恐ろしいことかは、身にしみて実感した頃にはすべて終わっている。未然に防ぐということは、実態のない化け物と戦うことと同じ。想像させることは困難だといえども、理解して行動してもらうよりほかないのだ。
「死んだ者を肉体ごと蘇生させる力を持つ世界が冥界だ。それは霊界にすら真似の出来んこと。しかも心に巣食う闇に付け入る。そんな世界が復活すれば、愛しい者など残らん。お前まで目先のものに翻弄されてどうするのだ」
そこまで言うと、コエンマは幽助の腕を掴んで自分から引き剥がした。
「あいつらを救えるのは、お前しかおらんのだぞ。お前はまだそれを自覚しとらんのか!」
さらに続いたコエンマの言葉に、幽助はただ彼を見つめたまま黙り込んだ。
飛影と蔵馬の感情を優先させることが、決していい結果には繋がらない。わかってはいるものの、他人の気持ちを無視できるほど薄情ではない幽助。コエンマはそれをよく知った上で、彼らの本来の絆を信じたかった。
すれ違いの中、本当に自分自身を導いてくれる相手が誰なのか、彼らが自ずと気づいてくれることを信じていた。そして、導く側に幽助がいるのだと自覚させたかったのだ。
「とにかく、今はまず冥界の入り口を塞ぐことが優先だ。ワシの霊力で結界の穴を完全に塞いだら、次はお前の番だ。飛影と蔵馬から冥界玉の力を取り戻し、封印する。いいな」
しばらく言葉を失っていた幽助だが、彼らしいまっすぐな瞳の力を取り戻しつつあった。
コエンマの念押しに「わかった」と一言漏らして頷く幽助の姿を確認して、コエンマたちは再び亜空間に向けて走り出した。