二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

『掌に絆つないで』第三章

INDEX|15ページ/16ページ|

次のページ前のページ
 

Act.14 [蔵馬] 2019年10月1日更新


「蔵馬!」
背後で、自分の名を呼ぶ幽助の声が聞こえた。
幻聴ではない。ところがそれを確かめることは出来なかった。
掴みかけていた黒鵺の白い手が、グイと蔵馬の腕を引いたかと思うと、振り向く間もなく別次元へ足を踏み入れてしまった。
亜空間に開けられた穴をくぐってから蔵馬は背後を確認したが、そこには闇だけが存在し、自分がいたはずの亜空間を臨むことは出来なかった。
蔵馬はその光景を訝しく見た。
先ほどまで、黒鵺はこちらから亜空間にいた自分と向き合っていたはずなのに、なぜ自分の背後には亜空間が消え去っているのだろうか。
「蔵馬」
呼ばれて、黒鵺に視線を戻した。彼の背面にも、同じように闇が広がっていた。
「ここは……もう冥界なのか?」
眉をひそめ、蔵馬は黒鵺に問いかけた。
「ああ、そうだ」
「何もないな。これがもうひとつの世界?」
「まだ封印が解かれてないんだ」
闇に覆われて、地表さえも見えない世界の中で、黒鵺はなんの躊躇もなく歩を進める。
その姿は、まるで故郷の地を踏んでいるかのように違和感がない。
黒鵺……?
蔵馬は今さら冥界に踏み込んだことをひどく後悔した。
オレは、重大な間違いを犯してしまったのかもしれない。
なぜオレは幽助の忠告を無視した?
感情の波に押されて、幽助の言葉を聞こうとしなかった自分。いつもなら、霊界が関わっているような世界に、足を運ぶという危険を冒すはずがない。
なぜ踏み入れてしまったのか。
それは黒鵺を信じていたからだ。ところが、次元を超えた今、黒鵺を疑い始めている自分がいる。とはいうものの、どこからどこまでを信じていいのか、何を疑えばいいのか、蔵馬にはわからなかった。
「黒鵺、お前はなぜ……そんなに冥界に詳しいんだ」
聞きたくはないが、聞かなくてはならない。幽助と黒鵺、双方が口にした冥界との関連。
「なんだ、さっきの話の続きか?」
「お前はオレに何を隠している? もう…すべて明らかにしてもいいだろう?」
蔵馬がそう言うと、黒鵺はいたずらっぽく笑い「そうだな」と呟いた。
「教えてやろう、冥界とはどんな世界か」
からかうように白い両手のひらを見せながら、彼は語り始めた。
「人間界の上に霊界があるように、魔界の上には冥界があったんだ。そう、本来なら、冥界は天界に位置する霊界と肩を並べる存在。霊界との決定的な違いは、冥界自身を保つためのエネルギーにある。そのエネルギーとは何か、わかるか?」
蔵馬はその問いかけに対して首を横に振った。同時に、黒鵺を疑おうとする自らをも否定し続けていた。
「心の闇、さ。魔界の者たちが秘める心の闇が冥界のエネルギー源。尽きるはずもないエネルギーだ。だからこそ、強大な力を得られた。冥界は亜空間の狭間にあって、魔界からだけではなく、人間界からもそのエネルギーを得ることが出来る。妖怪ども、人間どもの負のエネルギーを受け、冥界は膨張し続けた。だが、その力を恐れた霊界は、数千年前……、冥界を封印したんだ」
いくら寿命の長い魔族でも、数千年前に生きていたものは皆無に等しいはず。
どこか懐かしい思い出を語るような黒鵺の姿に、蔵馬の疑心は増していった。
「冥界を保つにはどうしても必要なものが二つある。それを霊界に封じられ、今、冥界はその力を発揮できない」
怒りをかみ殺すような表情で、黒鵺はため息を漏らす。
「王と、そのエネルギーを蓄えるための宝玉。それが冥界には必要不可欠なんだ」
「そんなもの、オレたちは持っていないだろう。ここにいる意味はない。魔界へ帰ろう、黒鵺」
蔵馬は黒鵺の腕を掴み、懇願するような瞳を向けた。
これ以上ここにいてはいけない、黒鵺はどうかしてしまっている。
「蔵馬。生きとし生けるものの心の闇を集める王に、お前ならなれる」
白い手が、蔵馬の腕を優しく引き剥がした。
「……何を言ってるんだ、黒鵺」
「オレたちが君臨するんだ、冥界に。そうすれば、魔界、人間界はおろか、霊界さえも手に入るぜ」
数歩後進する黒鵺を無意識に追って踏み出した一歩。ぐにゃっとした感触が足の裏に伝わると同時に、蔵馬の身体は数センチ沈んだ。
「なんだ……!?」
生暖かい感触が、足先にから徐々に上がってくる。慌ててその場を離れようとするが、すでに両足とも泥沼にはまったように動くことが出来ない。
「これは一体……」
「大丈夫だ、蔵馬。刻が来るまで、お前はじっとしていればいいだけだ。心配はいらない」
黒鵺の両目に映る怪しい光。それを見つめる内に、蔵馬の意識は朦朧とし始めた。
身体の周りには、空気より少し重いくらいの何かが漂う。ほどなくして、妖狐の銀色の髪は徐々にその色を変え始めた。秀一の姿に戻ろうとしているのだ。
その渦は彼の妖力を吸収していた。否、吸収というより持っている力を封じ込めにかかったようだ。
陥没していく地面に残され、黒鵺の姿は蔵馬から少し遠ざかる。それに向けて手を差し伸べようとも、届かない。彷徨わせた手がかろうじて触れることが出来たのは、岩肌のような壁の感触。触れたものの形状さえ目で確認することも出来ずに、蔵馬の意識は闇へと向かう。
堕ちていく。
光を閉ざしたあの悪夢へ。
靄がかかったような意識の中、黒鵺の笑い声だけが響き渡った。