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第2章・5話『永久を生きし者、永遠に縛られし者 参』

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東方星写怪異録 第2章・5話

―深層意識内―
しとね「────う、あ?」
しとねは頭に流れ込んで来た数多のイメージに流され、意識を失っていた様だった。
ゆったりと起き上がり、周囲を見渡す。
そこは意識を失うまで見ていた大樹がそびえ立つ草原の広がる丘から程遠く、草木や大樹は枯れ果てた寂れた場所に変わっていた。
しとね「一体……何が?」
紫「あら、随分と早く戻って来れたのね」
辺りを見ていたしとねは、大樹を優しく擦りながら現れた紫に驚きを隠せなかった。
しとね「あれ、紫さん?でも、ここは……え?」
紫「不思議かしら?私はあらゆる境界を操れるの、それが人の深層意識でも……ね」
???「そして……彼女が来る事はかなりの事態、という事よ」
紫の後ろから現れた本来ここに居た彼女を見た瞬間、しとねは違和感の正体に気付いた。
紫より少し幼い印象を受けるが、紛れもなく彼女は……紫本人だったのだ。
紫「彼女……イヴがここに居る意味を知ったしとねなら、外で何が起きているのか……判るわね?」
しとね「……神の御業、『最後の審判』と『生命の再交配』?」
イヴ「そう、そしてそれを行えるのが……始龍であるジン」
ジン────その名を聞いたしとねは辛そうに少しだけ目を伏せる、しとねにとっては今まで共に生きてきた間柄と言うだけあり、色々思う所があった。
そんなしとねを見ていた紫とイヴだったが。
イヴ「……今現在表に出ているのがジン、そしてこのままでは審判と再交配が始まってしまうの」
紫「だからこそ、私は提案するわ……始龍を、ジンを止める方法を」
しとね「……えっ」
紫「私の境界を操る程度の能力でしとね達の意識と肉体の境界を隔てる」
イヴ「……随分強引な方法ね、下手をすれば耐えられずにこの子が死ぬ事になる」
紫「私は提案するだけ、他に方法があるならそれでも構わないわ……あるならば、ね」
しとね「私は、紫さんを信じますよ」
そう言い……しとねは精一杯笑顔をする。
イヴ「もし、成功しても……貴方は能力が使えなくなるわ、それでも?」
しとね「元より、ジンから授かっていた一部ですから……」
イヴの顔を見据え、しとねはそう言い切り紫の方へ振り向く。
紫「────」
紫は静かに掌をしとねへ向け、何かを呟く。
しとねがそこに意識を向けるよりも早く、ズアッと紫の裂け目が広がりしとねの目の前に開く。
そして瞬く間にしとねを飲み込み、裂け目が閉じる。

2人にしばらく無言の状態が続き。
イヴ「さて……心残りが無くなったから私もあの子を止めてあげないと、かしらね」
紫「貴方だけで止められるのかしら?」
紫がそう言うと、イヴはクスッと笑い。
イヴ「外に心強い味方が居てくれてるもの、大丈夫よ」
紫「そう、なら私も用事を済ませに戻るわ……いい加減あの子を起こさないと、結界の維持も飽きてきた所ですし」
そう言い紫は裂け目の中へと消えていく。
それを見送り、イヴは大樹に触れ静かに目を閉じていく。

―篝宮市―展望資料館―
襲いかかって来た虚喰を守央が一撃、拳を入れ殴り飛ばす。
守央達の前に現れた男は、虚喰を一体差し向けた以降……何をするでもなくにこやかに立っているだけだった。
守央「急いでいるんだけどね、僕達に何か用事でもあるのかな?」
???「ん?ああ、君たちに用事は無いけど……居てもらわないと困るからね、もう少しだけ辛抱してくれるかい?」
守央「────生憎だが、ここにお前さんの探し人……しとねは来ないと思うけど?」
遵、雪、玲「!?」
???「いや────そうでも無い見たいだよ?」
その言葉に疑問を抱く前に、ズドンッと何かが降って来た音がし地面が揺れ、そこに居た虚喰達が吹き飛ばされて空を舞う。
地面に落ち転がる虚喰はそのまま身動ぎもせずに消えていく。
ザリッと音がし、落下地点から出てきたのは……その半身を龍と人が混じった様な姿をした────しとねだった。
顔の左半分を鱗に変わり果て、こめかみ辺りからは角の様な物が生え、背中からは8つのコウモリの様な翼、両手の爪は鋭く……足は最早人の面影の無い足となっていた。
???「────やっぱり、結末は変わらず……か」
男はしとねの異常な姿に恐れもせず、手をしとねへと向け……指をパチンっと鳴らす。
すると男の頭上に無数の槍が出現する。
男がその槍を飛ばすより速く、守央はしとねと男の間に移動する。
守央「何をする気だい?」
???「“それ”を殺す、それしか手は無いよ」
守央「納得出来るとでも?」
???「“それ”はもう世界を壊すだけの鍵でしか無い……救う方法は殺す以外に────」
話す男の体が横へ吹き飛ばされ話が遮られる。
男は地面を少し転がり、先程まで立っていた場所の先を静かに睨み付けながら立ち上がる
???「それは、君の望みなだけで我々の望みとは程遠いものだな……アダムよ」
アダム「……ようやくお出まし、か」
守央「永間……紺蔵!?」
アダムを吹き飛ばしたのは、いかにもな贅肉を腹に携える老人だった。
紺蔵「おや、私の存在を未だに知っている者が居るのか」
ふむ……と紺蔵は顎を指で擦る仕草をする。
守央「自営業だが情報屋なんでね────10年前の社雛の守村を起点とした半径40キロ、深さ30メートルにも及ぶ大規模な爆発……表向きは爆発とされたが、実際そこで爆発が起きた形跡も見つかっていない……何があったのかぜひとも教えて欲しいかな」
守央がそう問い掛けると、紺蔵は人とは思えない程ほくそ笑み。
紺蔵「あぁ、あの娘の母親を贄に世界を作り直そうとした失敗の末……“たったそれだけ”、だよ」
その言葉が終わると同時、沈黙を続けて立ち尽くしていたしとねが動き出す。
アダム「その子がイヴの依り代になるのを待ち、その為だけに村の人間達を贄にして星写しを始めたのか」
しとねが紺蔵を庇うように前に出る。
アダム「お前がそれだけにこだわるわけは無いな…まさかお前!?」
アダムが何かを察し、しとねに駆け寄ろうとする。
だがそれよりも早く紺蔵が左手に生み出した木の根の様なもので出来た杖でしとねを貫く。
紺蔵「アトランティスを沈めた時より考えていたのだよ、何が足らなかったのかを、ね…そして得た答えがこれだっ!!」
紺蔵が叫ぶと同時、しとねを貫いた杖から根が張り地面に刺さる。
アダム「貴方は最早自ら作り出した理すら…無視するか」
紺蔵「作り出した本人が理を守らねばならない義務は無いだろう?」
アダムが睨み付けながら、紺蔵はそんな彼を嘲笑うかのように空へ昇りながら言葉を発する。
その言葉は地球自体へ向けた様に響き渡る。

────さあ、最期の審判は下った────
────これより始まるは世界の、文明の終着である────
────人類に残されたのは滅ぶまでの猶予────
────実った果実を収穫する時は今────

紺蔵が放つ言葉と同じく、しとねを飲み込んだ杖は恐ろしい速度で成長をしていく。
紺蔵が言葉を放ち終えた頃には、雲を超える程の巨大な樹が出来上がっていた。
守央「何が、どうなってるんです?」
守央の呟きに答えるように、アダムが話し始める。