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ただ、空の向こうを目指して

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「僕、凄く面食いなんです。初恋は美人の上官でした」
「アムロ?」
噛み合わない会話に、シャアが困惑の表情を浮かべる。
「やっぱりセイラさんのお兄さんだけあって、貴方も凄く綺麗ですね」
目の前の美丈夫が、自分の言葉に不思議な顔をしているのが可笑しくなってきた。
「ふっふふふ」
「アムロ?」
「良いですよ」
僕の言葉にシャアが目を見開く。
「貴方と一緒に行っても良いですよ」
「アムロ…」


◇◇◇

  
「あの時、どうしてああも素直に私と共に行くと言ってくれたのだ?正直、君を力でねじ伏せて連れ去らねばならんと思っていた」
「そうでしょうね。あの時、周囲を完全に包囲されていた」
「気付いていたか?」
「そりゃまぁ…あんなに視線を感じたら…ね」
シーツに包まりながら、アムロはシャアの顔を見上げる。
「痛い思いをするのは嫌だったし、あそこでの生活もうんざりだったし…それに…」
アムロはそっとシャアの頬に触れる。
「あの時、貴方に触れられて…久しぶりに人の温もりを感じて…心が揺れました」
「アムロ?」
「今、思えば凄く無謀な事をしましたよね。かつての敵が僕を拐いに来たんだ。普通に考えたら殺されるって思ってもおかしく無い」
クスクスとアムロは笑いながら、頬に触れていた手を綺麗な青い瞳の横に滑らせる。
「僕ね、あそこでの毎日空を見上げていたんです。何も出来なかったけど…空を見上げる事は出来たから…」
どこか哀しい笑みを浮かべ、遠くを見つめるアムロに、シャアは少し戸惑いながらも、その琥珀色の瞳を見つめる。
一人、仲間から引き離され、豪奢な牢獄に閉じ込められていたニュータイプの少年。
その哀しい瞳の色は少年の孤独を物語っていた。
「ずっと…空の先にある…宇宙に還りたかった…」
「アムロ…」
「あの時、貴方の瞳を見たとき、空の色だって思ったんです。ずっと…見つめ続けていた空だって…だから…思わず手を取ってしまった」
「……」
「貴方の事、あんなに怖かったのに…あの時は怖くなかった…不思議ですよね」
「それは私の心が変わったからだろう、あの時の私は君を憎んではいなかった。それどころか君を欲していた」
「…やっぱり…昔は僕の事、憎かったですか?」
「そうだな、ララァを私から奪い、私のプライドを傷付けた君が憎かった。そして…私を凌ぐほどのパイロットしての技量と完全に覚醒したニュータイプ能力を持つ君を…恐れていた」
「貴方が…僕を?」
アムロは驚いて目を見開く。
「ああ、ララァがいなければ、君には敵わないと思った。だから、せめて実際に肉体を使った戦いならば訓練を受けた私が勝てると思って、あの部屋に誘い込んだ。結局は私の惨敗だったがな」
シャアは額の傷痕に指を這わせて苦笑する。
「そんな事…」
「だが、あれでスッキリした。だからこそ、今度は君が欲しくなった」
「あれで?貴方…変わってるって言うか…相当捻くれてる」
「そうかもしれんな」
そう言いながら、そっとアムロの丸い頬にキスをする。
「まぁ…僕も相当捻くれてるけどね」
クスクス笑い、そのキスを受け止める。
「そういえば、エゥーゴのブレックス准将と会うのは明日でしたっけ?」
「ああ、そうだ。君にも同席してもらうぞ」
「分かってます。まぁ、僕は脱走兵だし、反連邦組織なんてお誂え向きでしょう?」
「いいのか?もしかすると昔の仲間と剣を交えることになるかもしれん」
「うーん、何となくですけど…それは大丈夫だと思います」
「ニュータイプの勘か?」
「どうかな…ただ、何となくそう思うんです。それに、ブライトさんも今はテンプテーションの艦長してるって言うし戦場で会う事はないと…」
「ブライト・ノアか…」
「よく怒られたけど…悪い人じゃなかったですよ」
「あのホワイトベースの艦長ならば、我々の仲間になってくれれば心強いがな」
「ふふふ、そうですね。でも、また甘ったれるな!って怒られるかも」
「私が甘やかして過ぎてしまったか?」
「ふふ」
アムロはシャアの首に腕を回し、ギュッと抱きつく。
「こんなに甘え癖がついちゃったのは貴方のせいだ」
そんなアムロを抱き締めながら、首筋に唇を寄せる。
「仕方あるまい、こんなに愛しいのだから」
「僕も好きですよ…」

 ずっと、ずっとあの井戸の底で求め続けた空の向こう。
それはきっとこの腕の中だったのだろう…。


end

シャイアンから連れ出されたアムロがシャアと一緒にエゥーゴに参加してZに繋がる…