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敵中横断二九六千光年4 南アラブの羊

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「本当の敵はジャップじゃない」マクフライは言った。「あの丘に向かって叫んでみろ、『リメンバー・パールハーバー』と。返ってくるのは『アフリカ』かもしれないぞ。『リメンバー・アフリカ』『リメンバー・ワシタ』『リメンバー・サンドクリーク』……もしも谺がそう返ってきたらどうする。『何がパールハーバーだ。お前達がしてきたことはなんなんだ。奴隷の子は奴隷の子、いいインディアンは死んだインディアンだけだ――お前らはそう言ってきた。それをオレ達は忘れないぞ。だから言ってやる、〈マゼラン〉と。お前らが〈リメンバー・パールハーバー〉と言うたび叫び返してやる。リメンバー・マゼラン、リメンバー・マゼラン……』。そう谺が返ってきたらどう言い返すことができるんだ。『お前の先祖はオレの先祖の娘手籠めにしておいて、子が生まれたら母子ともどもどこか他所に売り飛ばした。〈奴隷の子は奴隷の子だ。人間の子とは認めない〉と言いながら――オレ達はそれを忘れない。だから日本の軍隊がここまで来てくれたなら、共にお前らと戦ってやる。パールハーバーがどうのと言うやつがいたら顔を覚えておいて、斧で頭をカチ割ってやる。そいつの家に火を点けてやる。オレの先祖がやられたように、木から吊るしてやってもいい。日本のテンノーの軍隊が来たら必ずそうしてやるからな』と、言われたならばどうする。そいつらに勝てるのか」

「いや……」とブラウン。「そんなふうに言われると、わからなくなってくるんだが……」

「なぜだよ。簡単なことだろうが。勝てない。そのときにおれ達は勝てない。勝ち目なんかあるわけがない――もしも勝てたら、ひょっとして、誰かが敵がヘマするようにタイムマシンで工作したってことかもな」

「ジャップがヘマをすれば勝てる?」

「まあね。一応はそういうことだ。同じウェルズの小説でも、『宇宙戦争(ウォー・オブ・ザ・ワールド)』とは違う。あれは地球が勝ったんじゃない。バクテリアに救われただけだ。この世界大戦(ウォー・オブ・ザ・ワールド)》では、そんなことは起きてくれない。ジャップの船の大砲で〈自由の女神〉が崩れるのを、〈彼ら〉がウキャキャと笑って眺める。おれ達が浜にへたり込み、『こうなったのは全部が全部ルーズベルトの野郎のせいだ地獄に落ちろ』と泣いてる横で、チャールストンを踊ってな……」

「なのにここに〈キャンプ〉を造ろうとしているわけか」

「そうするしかないだろう? おれみたいな〈イエロー〉が何を言ったって、上の連中は聞かんのだから。敗けたら、おれ達みんながみんな、こんなところに住まなきゃなくなる。雪風の吹く赤い砂漠……」

冷たい風が吹きつけて、焚き火の炎を揺らしていった。マクフライがツナ缶の縁で硬く凍った雪を掘ると、赤茶色の砂が出てくる。それをひと握り掴み取った。

「こんな土地にはクズしか生えない。ジャップのクズくらいしか……だからおれの子が食えるのは、クズの根っこのパンだけになる。そうしておれの子孫がみんな、クズの肥やしになることになる。百年前にジャクソンがやったことの報いを皆が受けるんだ。ルーズベルトの野郎が今、同じことをここでおれにやらせるせいでだ」

赤い砂を雪に撒いた。そうして言った。

「あの犬畜生」

「ルーズベルトは日本に敗けるかもしれないと全然思ってないんだろうな」

「でなきゃこんなことやらせるもんか。シンガポールがなぜ落ちたのか考えてみもしないんだ。だがな、敗けるぞ。アメリカは敗ける。たぶん、今年の七月四日だ。あと四ヶ月……」

赤砂と残雪の上にツナ缶を放る。雪風に身を震わせてマクフライは言った。

「それがこの国の滅亡の日だ。それまでに今の状況を打開できなきゃ未来はない。アメリカがこの缶詰のようになるんだ」