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敵中横断二九六千光年4 南アラブの羊

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できるものなら一思い



「地球人に目的地にたどり着かれたらおしまいなのだ」

とシュルツは言った。ガミラス十字空母の作戦室の中だ。

「そのときやつらは我らが星をあの波動砲で撃つ。撃つに決まっているのだから……」

「はい」とガンツが応えて言う。「もしや、スターシャはそれが狙いで……」

「そうでないと言い切れるか? 地球人を救うなら、放射能除去装置をくれてやればいいことだ。それをわざわざ、遣いの船を往復させて波動エンジンを造らせる。それをやったら波動砲が出来上がると知りながらだ」

「で、その船で自分の元に来いと言う。我々とすれば、それを見過ごすわけにはいかぬ。となれば当然……」

とヴィリップス。ガンツが後を継いで言った。

「ズドーン」

「……という話だ」シュルツは言った。「簡単だろうが。スターシャがその気でないとどうして言える。『コスモクリーナーを渡す代わりにあれを撃て。それが地球を救う条件』と言わぬとどうして言い切れるのだ。どちらにしても地球人は……」

「イヤでも波動砲を撃つ。それで我らはおしまい……」ガンツが言った。「司令はそうお考えなのですか」

「そうだ。だからこそわたしは、発進前に〈ヤマト〉を潰してしまいたかった。あれが砲を持っているか、持っているとしてどの程度の威力があるかわからぬうちに粉々に吹き飛ばしてしまいたかった。だからこそ……」

ヴィリップスが言う。「あのとき、ドリルミサイルで……」

「そうだ。空母は沈められると知ったうえで送り込んだ。しかしまさか、いきなり波動砲を撃つとは……」

「結果として本国に知られることになりました」とガンツが言う。「親衛隊から咎めを受けることにもなった。どうしてあんなことをした、と……」

そうだ。『貴様どうして』と、あのベムラーから〈電話口〉に呼び出しを受けて叱られた。そのナントカを殺ってどうする。地球人が波動砲を完成させて、その〈トヤマ〉に積んでいるかもしれぬと思わなかったのか。

そう言われた。よいか、二度とその〈トマト〉を一撃に沈めようとしてはならん。捕獲しろ。なるべく壊さず捕まえて、波動砲の秘密を奪え。デスラー総統閣下じきじきのご命令として申し渡す。

そう言われた。それこそが最も恐れていたことだった。それさえなければ……。

「それさえなければ……」シュルツは言った。「所詮は船一隻だ。やりようはなくもないだろうに……」

ヴィリップスが、「あの〈ヤマト〉を指揮する者は、それがわかっていたのでしょう。だからあのとき波動砲を撃った……」

「恐るべきやつだ」シュルツは言った。「ひょっとするとすべてを察しているのかもしれん。我らが双子ということすら……」

「いえ、まさかそこまでは……」

「ああ、そこまではさすがにないか。しかし、たいして変わらんだろう。やつらはともかく、我らの星がバルダナにあることまでは察している」

『バルダナ』とシュルツが言うのは無論、ガミラス語でマゼラン星雲のことである。ヴィリップスはそれに応えて、

「当然でしょうね」

「そう。だから同じことだ。わたしは〈ヤマト〉をひと思いに沈めるべきだったのかもしれん。たとえなんと言われようと……」

「言っても詮(せん)のないことでしょう」

「そうだが……しかし恐るべきやつだ。一体どんなやつがあれを指揮しているというのか……」

シュルツはまた言い、宇宙の図を眺めやった。〈ヤマト〉の予想進路上の散光星雲に眼を止める。

「ひょっとするとこの迷路すら、容易く抜けてしまうかもしれん……」