敵中横断二九六千光年4 南アラブの羊
BANG! と、何やらひとりでペラペラと壁に向かって話していた美少女アンドロイドの頭をビームが撃ち抜いて、その〈彼女〉は床に倒れた。まともな大人はヲタクの主張に耳を貸さぬのが当然なのは、昭和の頃から二百年間変わることがなかったし、人類が今の滅亡の危機を切り抜け、どれだけ存続しようとも、変わることなど有り得ぬのである。
『動くものはすべて殺せ。どうせヲタクとアンドロイドだ。この機会に粛清する』。突入部隊の兵士達はそのように指示されていた。アンドロイドは顔だけ見ればかわいいと思うことができなくないが、口を利いたらそれは普通の人間にとって我慢のならないものでしかないので、容赦なくすべて壊して先に進む。
「お、お前達、一体なんだ……」
ビルの奥では〈ぐっちゃん〉こと原口裕太郎都知事が、ついに追い詰められて叫んだ。
「ぼくが何をしたというんだ。ぼくを殺して何がどうなると思ってるんだ……」
どうなるもこうなるも、これが粛清というものだから死んでもらうしかないのである。殺した方がいいやつは、殺した方がいいのだから殺せるときに殺しておこう――ただそれだけで深い理由はないのだが、なんにせよこんな男を殺すのは社会にとっていいことだ。
部屋の壁には大きな額の肖像画が掛けられていた。描かれているのはかつて平成の日本で〈麻原彰晃〉の名で知られた男。
原口はそれに向かって両手を挙げ、声を限りに絶叫した。
「尊師ーっ!」
ビームに撃ち抜かれ、バッタリと倒れ伏せる。〈おっぱいヒトラー〉と呼ばれた男のこれが無残な最期であった。
作品名:敵中横断二九六千光年4 南アラブの羊 作家名:島田信之