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敵中横断二九六千光年4 南アラブの羊

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幻の鳥



〈ヤマト〉の前に突如として現れた宇宙船――それは沖田と徳川にとって、かつて一度見たものとよく似た光景であると言えた。

〈サーシャの船〉だ。あれが地球人類の前に初めて現れたときと同じ。

それは〈メ号作戦〉の後、一隻だけ生き残った〈きりしま〉が、地球に戻る途中だった。沖田と徳川はそれに乗り、地球に向かう遊星を為す術(すべ)もなく眺めていた。

地球の近くで突然に赤く光りながら進路を変える遊星は、その寸前までステルスの蓑を被っているためにレーダーや電波望遠鏡などでは捉えにくい。

光学探査――つまり普通の望遠鏡でなら見えるがしかし迎撃は難しい。すべてを人の眼でやらねばならぬということだからだ。全体の八割程度を途中で止めるのがやっとというところであり、〈きりしま〉にその能力はなかった。

なんと言っても、冥王星から地球まで〈きりしま〉が戻るのにはやはり二ヶ月近くかかるのに対し、遊星はその半分の一ヵ月で地球に到達してしまう。ビームの射程距離外の宇宙を石が通り過ぎていくのを見てもどうすることもできず、また、仮に近くを過ぎるとしてもやはり撃つわけにいかなかった。

敵は〈きりしま〉の砲身が焼き付くのを待っている。後を追いかけてこないのは主砲の威力だけならば〈きりしま〉が強い船だからだ。

しかしビームを何十と撃てば、過熱で力を失ってしまう。敵はそれを知っていて、わざと主砲の射程距離内ギリギリ辺りを進むよう石を投げ始めていた。それを撃つため船の進路を変えてやると、すぐさま石の投げ方を変える。

そのようにして〈きりしま〉は、帰り路を〈魔女〉に翻弄されていた。

〈サーシャの船〉が現れたのはそんなときだ。船の前方に突如出現したと思うやすぐ〈次元海中〉に潜り、また飛び出してトビウオのように宙を舞う。

潜っては舞い、舞っては潜りと何度か繰り返した。その動きは美しく、船の姿もまた美しかった。それがビームと魚雷とで攻撃されないための機動なのも明らかだが、同時にまた敵でないのを示す動きのようにも思えた。

そのとき沖田は砲雷士に攻撃を命じなかった。どうせやっても当たるまい、との思いもあったがそれ以上に神秘的な美しさゆえに、攻撃や防御など忘れていたと、後に人に話している。誰もがそこに現れたものを、幻の鳥のようだと感じた。過去か未来から飛んできた、手を触れてはならない幻の鳥のようだと……。

〈サーシャの船〉は次元潜宙艇だった。水に飛び込んで魚を捕らえるアジサシのような船であるためそんな動きができたのだが、しかしそれから一年後のこの今現在、〈ヤマト〉の前に現れたのは、水鳥は水鳥でも……。

「なんだありゃあ」

と島が言った。〈ヤマト〉の前にいま突如として鳥のような船が現れ、『撃つな』とばかりに翼を振った。と思うと姿を消して、細い頸を持つ鳥の頭のようなものだけ通常空間に出した。そのまわりに水紋のような時空の歪みがあることからして、あの〈サーシャの船〉によく似た次元潜宙艇であるとわかるのだが、しかし『同じ種類』と言ってもこれは……。

「ずいぶん不格好な船だな」

と南部も言った。森は聞いて「うん」と応えながら、しかし最近、あれとよく似たものをどこかで見たような気がした。見てもあんなもの見なかった、あれは幻ということにせねばならないダメダメな鳥……。

思い出した。そうだあれだ、〈がんもどき〉。〈ゼロ〉の尾翼に古代が描いた変なトリさん。

〈ヤマト〉の前にいま出現したものは、あの画に描かれていたものとよく似た船と言えそうだった。

古代が描いたあれに似た鳥を無理に探せば鵜だろうが、だからその船も鵜に似ている。水に潜って魚を捕らえる鳥には違いないけれど、アジサシとはまるで違う。優美さなどカケラもない。なんだか鵜に似た不格好な潜宙艇が、〈ヤマト〉の前でジタバタと変な動きをし始めたのだ。

相原が言う。「交信を呼びかけています。『撃つな。和平を求めて来た』」

「ふうん」と沖田は言った。