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「E」

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ーーーーーー


「中々会えなくてごめんね。」

紅茶の用意をしながら、リゼが申し訳なさそうに笑って言う。
城内で1番日当たりの良いバルコニー。リゼのお気に入りの場所。日差しが柔らかくなっていく、リゼのお気に入りの午後の時間。
二人で話をする時はいつもここだ。
ここで、他愛もない話をしたり、それぞれの愚痴を言い合ったり、これからの話をしたり。
二人の思い出の多くは、ここにあった。

「いいよ。リゼも忙しかっただろうし。いろんな人と会って、大変だったでしょ?」

大きな目の縁に薄い影が差している事は容易に見て取れた。見知らぬ人と話すことが苦手な彼女だからこそ、公務は決して軽くない負担だ。祝賀会に集まるのは各国の要人なのだから、彼女の心労も殊更に積もるものだっただろう。

「まぁねぇ。でも、大分落ち着いてきたよ。人と話すのも慣れてきた。大変だったけど、ひとりじゃなかったから…」


そこでふと、リゼがバルコニーの入り口を見やる。

入り口にもたれかかるように、一人の男が立っていた。

濃い赤色の髪がよく似合う精悍な顔つきの若い男。
華奢だが、男としての力強さを内包した、凛とした雰囲気の好青年。

「失礼。邪魔するつもりはなかったんだよ。リゼ、午後の公務はほとんど僕の仕事だから、ゆっくりしていなさい。」
柔らかな耳障りの良い声で、彼が言った。

「ありがとう、ギーン。お言葉に甘えさせてもらうね。」
嬉しそうに微笑みながら、リゼが応えた。



ーーーーーーー

リゼが隣国の皇子と結婚して1週間。

街の華やかな祝賀ムードも落ち着きを見せてきた。国への来訪者も減りつつあり、街も、城も、少しずつ日常に戻っていた。

私も、この街では唯一の錬金術師として暮らしながら、リゼと親しい関係を続けている。リゼは皇子にもすっかり心を許しているようで、とても仲睦まじい様子をよく私に話してくれる。彼は私に似ているなんて冗談めかして言うくらいに。




リゼの結婚。
いつかは来る時があると思っていたし、王国にとっても、リゼにとっても必要な事だと分かっていた。

寂しさはもちろんあったけれど。

「リゼは幸せそうに笑えてる。良かった。」



作品名:「E」 作家名:somoko