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遊戯王 希望が人の形をしてやって来る

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prologue:遊馬の章

ヌメロンコードは無から有を作り出すものではない。『書き換える』ものだ。
ヌメロンコードは全能の力。あらゆる全てを書き換えることが出来る点で本来制約などない。そういう意味では、なんでも出来る。
けれども。
書き換えの元になったものは、代償に消える。

アストラルはヌメロンコードを手に思う。
(例えば。遊馬の誕生の重要な起点を書き換えてしまえば、結果、遊馬は生まれないだろう。)
望む未来を作る為に、他の何かを書き換えで失う可能性があった。
(遊馬を、遊馬のかっとビングを、遊馬を構成する全てを)
アストラルがもし、全てを損なわずにヌメロンコードを行使しようとするならば。ヌメロンコードの制約は、あまりにも多かった。

アストラルの使命は、アストラル世界の安寧。
そしてアストラルの望みは、遊馬が笑う未来であった。
遊馬の笑顔は、彼が多くの仲間を失ったままでは戻ってこないと、アストラルは知っていた。

「私が勝った時は、
バリアン世界を消滅させ、そして、
私に関する君の記憶も全て消去する」

アストラルがその二つを確実に果たせるのは、バリアン世界の消滅
正しくは『バリアン世界が最初から存在しなかったように過去を書き換える事』だった。

それはすなわち、七皇が人として歪みなく平和に生きた世界ということである。
故に、この戦いの全てが白紙に戻り、カイトは死なず、遊馬は目の前で仲間を失うこともない。遊馬の笑顔は還ってくるはずだとアストラルは考えた。

もっと言えば、遊馬の父と母が行方不明になる事実は無くなり帰ってくる。
バイロンがバリアン世界で体を失う事実は消え、復讐にⅢ、Ⅳ、Ⅴの3人が巻き込まれる事もなく、Ⅳとのデュエルで璃緒が怪我を負う事も、凌牙が陥れられる事実も無くなる。
何より、凌牙がバリアンとして覚醒する事はない。結果としてあの戦いは起こらない。

アストラルが遊馬に『ヌメロンコードでバリアン世界を消滅させる』と言ったのは、そういった理由だ。四角四面に当初の使命を果たそうとしたのではない。
全ての因果の起点になった過去を書き換えるのが、何よりも安全に、間違いなく、消えて行った者達を現世に蘇らせる術だったからだ。
そして遊馬の望みは、皆を生き返らせること。アストラルはそう考えた。しかし。

ナッシュとのラストデュエル。遊馬は叫んだのだ。
「確かにヌメロン・コードの力を使えば、この戦いで散っていった仲間を救うことが出来るかもしれねぇ……
でもアストラル、それって本当に俺たちの未来なのかな?
どんなに辛くても苦しくても、逃げ出さずに必死になって戦ってきた……
一瞬一瞬の積み重ねに俺たちの未来があるんじゃねえのか?
そんなの俺たちが戦ってつかんできた未来じゃねえ!」

そうして、遊馬の望みが、自身が思っていたよりも、はるかに困難である事実をアストラルに突きつける。

アストラルは、本当は気づいていた。
バリアン世界を無くせば、例えば確かにカイトは帰ってくる。
しかし、ハルトの病気は治らず、治療にかかりきりで家から出ないカイトと、遊馬の出会った事実は消えるだろう。

確かにシャークは蘇る。バリアン世界でなく、アストラル世界からの転生者という修正がされて、今度こそ妹を失うことなく生きていくだろう。
不正で糾弾される事の無かったシャークは名高いデュエリストとして、別の形で遊馬と出会うことも可能かもしれない。だがしかし。彼が友と認め合ったⅣと出会う事は無くなり、カイトと遊馬の3人で立ち向かい、勝利を収めた得難い瞬間は、永久に消え去るだろう。

アストラルの選んだ道は、確実な命の保証と引き換えに、多くの代償を伴う可能性を、内包していた。
アストラルは、迷った。
けれどもこのままでは、代償を伴う爆弾を内包しているのは、遊馬も同じだったからだ。


最後の最後。救えると信じていた。
ナッシュに手が、届かなかったこと。

それが、遊馬が別れのたびに積み上げていた、心の悲鳴のトドメだった。
『自分は結局、誰の手も掴めなかったんじゃないか?』
遊馬が自覚していない、絶望の疑心だった。


けれども、それはナッシュの側から見ればだいぶ違う。
ナッシュも、そして皆も。笑って逝った。希望を託して。
それは、死の絶望よりもずっと、救われていたということだ。

『皆の心に、最初から遊馬の手は届いていた。』

きっと、そんなふうに、皆言っただろう。
オレ達は最初からわかりあっていた。そんなふうに言ったナッシュと、皆同じように。



けれども、その自覚の薄い遊馬にしてみれば、とんでもなかった。
無理からぬ事だった。世界でたった一人遊馬の背中を見ることが出来ないのが他ならない遊馬だ。
遊馬が笑わなくなった影には、恐ろしい爆弾が隠れている。
もし下手な形で遊馬が自分の疑心を自覚したが最後。
心を壊しかねないほどの。


それはナッシュが、カイトが、皆が託した希望が潰えることを示す。

それは、遊馬の託された全ての希望が、遊馬の全てを押しつぶすことだ。


『笑う』

というのは、本当に難しいことなのだ。



(遊馬。取り戻すんだ 全てを。)



「弱気になっちゃってたんだ、オレ。」

そう言って、遊馬が穏やかに苦笑するのは、後になってからの話だ。

「でも、アストラルがオレの目を覚ましてくれた。
自分を疑うことは、自分を信じてくれたみんなを疑うことなんだ。」


遊馬は、乗り越えた。

ラストデュエル。遊馬は笑ってみせたのだ。




その安堵を、アストラルは言葉にすることができない。
(もう、大丈夫)

その時アストラルは、遊馬の為に、遊馬に連なる全ての人の未来を信じようと願った。

アストラルは決意した。
選んだ道は、過去の書き換えではなく、『未来の創造』。
バリアンの力を持ち消えた者に、未来へつながる細い道を創造する事。

危険な賭けだった。僅かな可能性だった。
けれどもアストラルは、それに賭けた。恐怖は無かった。
(遊馬は彼らを信じるだろう。人の、可能性を。
ならば私も、それに賭けよう。)

──────「お前が世界一強いデュエリストでも、
たとえこれが1万回に1回しか勝てないデュエルでも、
このデュエルにその奇跡を起こしてみせる!」

遊馬の瞳が、今確かにアストラルの背中を押している。
→The Last Game.START