倒錯する本能
ね、セックスしよ。
つやつやとした、濡れたように艶やかな瞳が、俺を捉えた。それなのに言葉は軽薄で、ひどく軽やかで。そのギャップに違和感を感じて、思わず眉を顰めた。ほんのりと蒸気した頬が淡く色付いて、くちびるはてらてらと光っている。まるで肉食獣の。なにかに飢えているようでもあるし、その実、ひどく豊満で満ち足りた匂いもする。目が、あんまりにも乾いているので。
えっちでも、性行為でも、子作りでもない、無意味でスカスカなセックスをしよーよ!せーえきを垂れ流すだけの、欲求さえも解消され得ない、体力の浪費と消耗のみが残るような。そんなきぶんなんだ!価値の無い屑同然の、そこにあってもなくても変わらないことをしたいんだ。ぐっちゃぐちゃで良く判らない肉塊に成り下がりたい。なんでだろうね?これは衝動。きっと、そうだ。良く判んない熱が、咽元まで競り上がってきていて苦しーんだよ。だから、ね?良いでしょう。
その、生白くて華奢な、息を吹けばぽきりと折れてしまいそうな、首。それが妙に艶めかしく映る。肩越しに見える、肩甲骨の僅かな膨らみ、そのカーブ。腰はくいと微妙なラインを造り、ウェーブが居た堪れない。細い。細かった。この生物は本当に生命活動を維持してゆけるのだろうかと、不安になるくらいに細かった。しかし不思議な色気は漂い、ある種の肉感までも感じずには居られない。その、吐息が、誘う。
何故かは判らなかった。何かに押されたように、本能的にキスをした。がっついて、がっついて、がっついて。まるで肉欲に溺れた雄のような、思春期の中学生男児のような、そんな余裕の無い、切羽詰ったキスをした。それにそいつは、満更でも無いように目を猫のように細めて、待ってましたとばかりに同じくがっついて応えた。人間的な欠片すらない。そこにあるのは、動物的な、極めて動物的な、情欲の渦巻く吐息だけだった。
なあ、ボロボロにするぜ?
(それでもそいつは嬉しそうに、にま、と、笑った。)