数々の失敗と一つの成功
最近のアルフレッドは気づいていた。
嬉しい時に恥ずかしがって素直に言えないのだと思ったときに、
可愛くて仕方がなくなってしまった。
「スコーン焼いたからくっていいぞ」
おずおずと差し出されたそれをアルフレッドは笑顔で受け取りはしたが
内心微妙な心持だったのは言うまでもない。
料理上手な彼女を持った男は幸せだとしみじみ実感するのであったが、
料理がそう上手でもない(というか、ひどい)彼氏を持つ自分は
黒っぽい塊の爆弾を食べるという試練を乗り越える努力がいったが
可愛い恋人の前でそんな顔はしたくなかった。
もぐもぐ頬張ってみると、今日のはいつもよりちょっと美味しかった。
しょっぱかったり甘すぎたりしたところが微妙に改善されている、と評価した。
「今日のは特に美味しいよ。いつも美味しいけどね。俺のためにいつもありがとう」
少しの本音が混ざってその言葉は真実味を増したのかもしれない。
心根の優しいヒーロー気質のアルフレッドは爆弾を食べながらいつもおいしい、と言っていた。
その言葉を受け取ったアーサーは真っ赤に赤面しておずおずと返事をする。
「お前のために作ったわけじゃないけどな…今日はいつもよりうまくできたと思う」
語尾が小さくなっていくのと同時に態度も小さくなっていくみたいだ。
視線をそらして赤くなってもじもじしている姿を見たらアルフレッドは急に胸がきゅんとして
長い両腕で彼を抱きしめた。
「ほんと〜においしかったぞ!また君の作ったスコーンが食べたいよ」
アーサーも抱きしめ返す。恋人の言葉にひどく感動しているようだ。
その肩が震えているのをアルフレッドは感じていた。
「君の研究熱心なところは俺も見習いたいよ。努力するひとはちゃんとこうやって成果が出ているんだからね」
「努力はした…けどそんなに褒められると…照れるだろ」
せいいっぱい褒めてやってもっともっと料理が上手くなればいいと思う。それは本当に思った。
「また作ったら、お前にあげてやってもいいけど、今度はもっと美味しくできるんだからな」
アルフレッドはにっこり笑ってアーサーの頬にキスをする。
「また俺が食べてあげるよ」
二人はぎゅっと抱きしめあって熱いキスをするのだった。
作品名:数々の失敗と一つの成功 作家名:hare