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化け物と貴方

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服の襟を下ろして、太い首に牙を刺す。
「う・・・」
その痛みに彼の声が漏れた。私は首につけた傷からいつものように血をすすり、喉を潤していく。


私が吸血する時、この体に手が触れるとしたら。それは私を引き剥がすためだ。生き血をすすろうと襲いかかる、得体の知れない化け物から身を守るため。逃れるためなら容赦はない。その手は時に私の体に痣をつけ、傷をつける。
その内その手から身を守るため、私は悟られぬように騙して近づいて、そして巧みに逃げるようになった。けれどもそれを繰り返すと、私に触れる手はより容赦をなくしていき、ついには武器まで持つようになった。

最後には、私が吸血鬼だと知るだけで。

でもそれは仕方のないことだった。誰だって我が身に危険が迫れば必死になってもがく。その結果でしかなかった。悪いのは、お互いに違う生き物だったことだ。そしてそれはどうしようもないこと。
私はもう全てに慣れていた。何度も何度も繰り返したことだった。そうして生きるしかないと思っていた。もしそんな日々が終わるとすれば、この身が太陽に焼かれる瞬間を向かえた後だけ。それ以外の結末はあり得ないと思っていた。
けれど。


首筋に噛みつき血をすする私を、彼は優しく抱き締めていた。その温もりの中で飢えを十分満たした私は、唇を離して彼を解放する。これでしばらくの間はもつだろう。
「─頂いたわ。ご馳走様」
「ああ」
彼は短く答えると、襟を上げ直して首元を隠す。
吸血鬼そのものも恐れられているけれど、深く関わる人間もまた恐怖の対象だ。私に血を与え続けているなんて知られたら、彼は聖火騎士としての立場をなくしてしまうに違いない。
私達の関係は誰にも知られてはいけないのだ。
「そろそろ呼ばれる頃だ。行ってくる」
「ええ、分かったわ」
白いローブを翻してドアへと向かう彼を、黒いドレスの私が見送る。
数日前、神官達と共にしばらく別の町へ赴任するのだと言っていた 。この部屋を出ていったら、その間彼は協会のこの一室には戻らないだろう。
彼の手が、ドアノブにかかった。


─それなら俺のところに来ればいい。お前が望まないまま化け物として生きずに済むのなら、この血はいくらでもくれてやる。

何もかも諦めていた私に、彼はそう言って全てを終わらせてくれた。正体を隠さなければならないことは変わらなかったが、ただ一人の人間に受け入れられただけで、世界が大きく変わったように感じた。周りの景色を見てもどこに身を潜めるかなどとは考えなくなり、人の集まりを見てもそろそろこの町を出る頃合いかどうかも考えなくなっていた。誰を騙すかも、どうやって逃げるかも考える必要がなくなるだけでこうも変わるとは。
望み続けた日々を与え、今の私を満たしてくれたのは彼だった。
今はもう、これ以上望むものはない。だけど。


「─待って」

私は反射的に声をあげていた。
「・・・? 一体どうした」
訝しげな顔で向き直る彼の元へと駆け寄ると、背伸びをし、高さが足りない分はローブの首元を引き寄せて距離を詰める。
そして、唇に口付けた。
「いってらっしゃい。私の騎士様」
そう言ってローブから手を離し、微笑みかける。

─これ以上望むものはないけれど、彼と過ごせる今の『日常』が少しでも長く続いて欲しいと思う。満たされてしまった今、あの『日常』に戻るなんて考えられない。
もし彼の仕える『神様』が、 人に仇なす存在である私にも加護を与えてくれるなら、この望みを叶えて欲しい。生まれもった吸血鬼としての術も、逃げ延びるためにつけた知恵も全部使って、あなたに尽くしてみせるから。

私に不意をつかれた彼の顔がみるみる赤くなっていく。
「お、お前は! またそうやって・・・!!」
「あら、いけなかったかしら?」
そうやってとぼけてみせると、彼は赤い顔のまま小さく溜め息をつく。
「・・・人前に出られなくなるようなことをしないでくれ」
困ったように彼が言った。その様子に私は思わず笑ってしまう。彼の顔から赤みが引くのにはもう少し時間がかかりそうだ。
作品名:化け物と貴方 作家名: