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エンジン全開

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 昇降口から屋外を見てやれば、鳥は羽音を立て、ふっくらとしていた蕾は綻び、どうやら東京にも春が訪れていた。綱海が大会の代表選抜のために上京してからやっと巡りあった春というものは、彼自身が待ち遠しく思っていたので、小躍りしてしまいそうになるほどに喜ばしく思えてならない。

 改めて空気や匂いを堪能すべく、彼は、外履きをつっかけたまま外へ飛び出して、深く深く息を吸って、その晴れやかなものを胸に取り込んだ。張りつめた冬の膜が消え去って、柔らかく肌を撫でる春の膜が、綱海の体中を駆け巡った。

 必要もなく、意味もなく、笑い出したくなる暖かさが優しい。
 昇降口の脇に並べられたプランターの花が色を咲かせて香ってくる。
 雨の降り始めのような、湿った匂いすら……おや。

「お前、朝から何やってんだよ」
「花に水を……」

 知らず自分の世界にのめりこんでいた綱海は、プランターの花に水を与えている立向居を振り返って首を傾げ、彼に訊ねたいことは見ればわかるような、そういったニュアンスではなかったのだが、「おはようございます、綱海さん」とジョウロを抱えて歩み寄る立向居を見れば、僅かしかなかった重みの疑問も記憶の彼方へ吹き飛んだ。

「ん、おはよう」
「なんだか楽しそうですね、何かあったんですか」
「トーキョーにも春が来たなあとか、朝から立向居は真面目だなあとか、そんくらいだぜ。楽しいっていうか、うきうきする」

 綱海はカラッと笑ってすぐ目の下までやってきた後輩の跳ね回る癖毛を些か乱暴に掻き混ぜた。二つ上の先輩に力負けしないようにグラグラと揺れる頭を踏ん張りながらも、彼に釣られて、気がつけは立向居も笑っていた。


作品名:エンジン全開 作家名:陶|スエ