二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

届くわけ無いアイラブユー

INDEX|1ページ/1ページ|

 

 

 



 あんまり表情が変わんない人だと思っていたけど本当はそれほどでもなかった。ということがわかったのはあの夏の冒険の思わぬ副産物のひとつなのよね。

「ね、泉くん、お願い」
 その副産物のお陰で、教室を出ようとしていた私の足は止まった。光子郎くんが三人の女の子に囲まれている。あら珍しい景色。じゃなくって。
「…助けてあげようかな」
 押し付けられた封筒を困ったように見つめていたから。なんとなく想像がついてしまった。ひとつ息を吸って、無邪気な声を吐き出す。
「どーしたのーっ?」
「あ、ミミさん」
「あぁミミ、あのね、私たち泉くんにちょっと頼みごとがあって…」
 何かを遮る動作で前に出た彼女の言葉を聞き流す。
「わあっ!光子郎くんラブレターもらっちゃったの!?」
「ちょ…声大きい!」
「違いますよ、ミミさん」
 女の子たちは慌てて人目を気にし、光子郎くんはちょっと苦笑い。そして、その手の中の封筒を裏返して見せた。

『八神先輩へ』

 あーやっぱり……。思わずうんざりした表情を出してしまいそうになったけど、笑顔を保つ。けれど光子郎くんには見抜かれているようで、クスリと笑われた。嬉しいような気も悔しいような気もする。
「太一さんはモテモテねー」
「泉くんは八神先輩と同じクラブだから……渡してもらえるようお願いしてるとこなのよ」
「ふうん、そっかぁ。でもそーゆーのってさ、人に頼むことじゃないんじゃない?」
 さりげなくさりげなく角が立たないように、と意識していたけど彼女たちの表情は固まった。…うん、やっぱり、全てまるーく穏便にはいかないか。
「…光子郎くんだってこんな役目は嫌でしょう?」
 話をふられた光子郎くんは「僕は、別に…」とか言うもんだから、目配せで黙らせた。何が「別に」よ、嫌に決まってるじゃない!
「自分で言わないとさ、気持ち伝わらないよ、きっと!ねっ光子郎くん!」
「そ、そうですね」
「太一さんは優しいから、きっと真剣に答えてくれるよ!ねっ光子郎くん!」
「そ、そうですね…」
 光子郎くんが持っていた封筒が、しぶしぶといった形で彼女の元に戻る。私は光子郎くんの腕を引いて「一緒に帰ろ」と笑いかけて教室を出た。
「じゃ、告白頑張ってね!」
 最後に彼女たちにそう声をかけたけど、本当は応援なんかしていない。太一さんがあの子に振り向くとは思えない。てゆーかそんな展開は私が認めない。嫌。
 だから学校を出てしばらくしてから光子郎くんが言い出した「太一さんは、あの人に告白されたら何て言うんでしょうね」なんて言葉には「大丈夫よ」と答えた。
「大丈夫よ。太一さんはあの子にはなびかないわ」
 光子郎くんは驚いた顔をする。その表情の中の何処かに「安心」があるように思えた。私の言葉を信じるのね。ああなんだかとても、複雑な気持ち。

「ねえ光子郎くん、恋ってね、そんなにキレイなものじゃないのよ」
 彼の三歩前を歩いて私は色を変えてゆく空をぼんやり眺めながら彼に話しかけた。
「ひとりよがりで勝手で、自分だけじゃなくて相手まで振り回しちゃうこともあるし、ずるくて迷惑でいやーな感情なのよ。なんかどろどろしてるし」
 少しだけ反応を待つ。彼は何も言わない。思考している気配だけがある。ああどうかその思考が私を無視したモノじゃありませんように!なんてことを念じながらくるりと振り返った。光子郎くんは私の顔へ視線を上げて立ち止まった。
「ミミさん、恋をしているんですか」
 そして出てくる台詞がそれなのか。まあ当然といえば当然かぁ。別に肯定したっていいんだけどね、いややっぱダメかな。
「私は私の話をしたいんじゃないの」
 あんまり真剣っぽくしたくないから私はにこりと笑った。光子郎くんはきょとんとした。
「光子郎くん。光子郎くんのソレは、恋なんですか?」
 感情を隠すのが上手な彼の表情の動きを見落とすまいと私は頑張って見つめていたけどそれは無駄な努力だった。逆に、とてもわかりやすい動揺だったのだ。こっちがどきりとしてしまうくらい。光子郎くんは目を見張って私を見る。その瞳の深い黒にたくさんの感情が通り過ぎて行って思わず目を逸らしてしまった。私もまだまだ情けない。
 立ち止まったままの沈黙が辛い。かといって歩き出したくはないし光子郎くんに歩き出されても困る。私が何か言ったほうがいいのかな?気まずいから前言撤回しちゃおうか?こうしろうくん、と呼ぼうとしたその言葉を遮って「ああ」と彼は突然笑顔になった。
「そうですね、確かにこれはそんなにキレイな気持ちじゃない」
 うわあ、不意打ち。
 どちらからともなく、私たちは歩き出す。私は意識的に彼より先を行く。夕焼けは夜空に差し掛かる。
「そう、わかってるならいいのよ」
 いつか今のことを回想するときにはきっとこの言葉は強がりと解釈されてしまう。そんなんじゃない。そんなんじゃない。そんなんじゃない。そんなんじゃない!
「ミミさんはどうなんですか」
「え?」
「僕は教えたのに、ミミさんだけ教えてくれないのは不公平です、ミミさん」
 私の隣へ並んだ光子郎くんがなんだか楽しそうに言う。
「ミミさんは恋をしているんですか?」
 例えばここで私が太一さんの名前を出したらどんな顔するだろう。私はいつだって光子郎くんを困らせて生きていたいと思っているけど…「それ」はどうしても実行に移す気になれない。
 だから私は笑って、
「してるわよ、恋」
 と言うだけに留めておいた。

 私が光子郎くんを好きだという真実を告げるという考えが眼前に浮かばないことが、我ながら不思議だと思う。




     届くわけ無いアイラブユー
作品名:届くわけ無いアイラブユー 作家名:綵花