チートしかいないカオスな異世界でも平和に暮らしたい。
ソフトは長年世界中で愛されているファンタジーMMORPGの記念すべきシリーズ十作品目で、今日発売の新作はフルダイブVRMMORPGに対応した期待の神作、シリーズファン歓喜の瞬間なのである。
「ほんとに六つ買ってきたよ・・・」
「店員さん困惑してただろうなぁ」
「してたよ、『マジか・・・』って目してた」
「そりゃそうでしょ。六人家族全員がそれぞれ自分用のVR持ってるなんて普通思わないでしょ」
「じゃあはい、早速やろう!みんな部屋行こう部屋。オニ~起きて~」
早くプレイしたくて興奮度MAXの自称プロゲーマーオネはオニをゆっさゆっさ雑に揺すって起こしながら他の三人に先に自分たちの部屋に行っておくよう指示する。
全員がリアルタイムで参加できるゲームを買ったときのオネはいつもこんな調子で、ご飯やお風呂などは後回し、買って帰ってきたら速攻始めたがって基本的言うこと聞かないので、全員反対はせずおとなしく自分の部屋に行ってVRを起動する。
そして揺すられているオニもようやく目を覚ます。
「・・・ん?・・あぁ帰ってたんだ」
見た目はオネとワンを足して2で割ったものを性転換させました。みたいな感じで、眼の色はオネと同じ透き通った青。声もオネとワンを足して二で割ったものをイケボに調声した感じで面影を感じるくらいには似ている。
「うん、お兄ちゃんはまだだけど。それより買ってきたよ、早くやろう!」
「兄貴待たなくていいのか?」
「大丈夫、帰ってきたらすぐ連れてくるから」
「そっすか」
そう言ってオニは手渡されたソフトを持って自分の部屋に向かう。
一方あれだけ「早くやろう」と言っていたオネは自分の部屋には行かずソファーに腰を下ろしソフトの説明書などを読み始める。
この時のオネは先にゲームを始めた四人に何が起こったのか知る由もなかった・・・・・
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
――約一時間後
「ただいま」
夕方六時過ぎ、一人の少年が帰ってくる。
イアとロクを足して二で割ったものを性転換させた感じの見た目。
イアとロク同様綺麗な七色に輝く髪。長髪のイアやロクが両サイドの髪をそれぞれ肩あたりでゆるい三つ編みしているのに対し、セミロングの少年は一部だけロングに伸ばした後ろ髪をイアロクと同じゆるい三つ編みにして垂らしている。
目はイアと同じ深く静かな碧眼、声はイアとロクを足して二で割ったものをクリスタルのような透明感を損なわない程度にイケボに調声した感じでよく似ている。
イアオネが制服だったのに対してこの少年は私服、Tシャツ・ジップパーカー・ジーンズと明らかに学校帰りではないことが見て分かる。
「お兄ちゃんおかえり、ゲームしよう」
何分前から待っていたのか玄関を開けると同時にオネに手を引かれ少年が声を発する間もなく自分の部屋に連れていかれる。
「・・・オネ、今からやるのか?」
「そうだよ、お兄ちゃんが遅いからもうみんな先に始めちゃってるよ」
それだけ言うとオネはゲームソフトを少年に渡し、ダッシュで自分の部屋に戻ってVRを起動する。
こうなってしまっては説得するのは困難なうえに他が既にゲームを始めてしまっているので小さく溜め息をつきながらも仕方なくゲームの準備を始める。
そうこれこそがオネが他の四人と一緒に始めなかった理由。それもこれも全部家事全般を担当しているこの少年に有無を言わさずゲームに参加してもらうため。もし仮に全員揃うまで待っていたら先にご飯やお風呂になってしまうのでそれを回避するために他の四人には先にプレイを開始してもらった。しかもよほどの緊急事態でない限り途中で切断なんて真似はしてこないので一度始めてしまえばこっちのものなのだ。
注意することはこの少年にゲームを始めさせる係が一人残っていなければならないという事。仮にもしオネが他の四人同様先にゲームを始めていた場合・・・この少年は夕食の下拵えやその他家事が終わってからプレイしていただろう。いや、この少年の事だ。先に自分だけ夕食とお風呂を済ませてからプレイしていたかもしれない。
せっかくみんなで一緒にプレイすると決めていたのに大遅刻されては困る。 そこで一番ゲームに対して熱狂的なオネこうして残っていたというわけだ。
電源を入れ、ゲームディスクを傷つけないように慎重にセットし、ヘッドマウントディスプレイを被ったのち、そのままベットに仰向けで横たわれば準備は完了。ゲーム機がディスクを読み取りを開始し、しばらくすると目の前の画面に読み込んだゲームソフトアイコンが現れる。アイコンに視点を合わせるとその脳波をヘッドマウントディスプレイが読み取りアイコンの外枠が強調され下に【はじめる】のアイコンが出現する。今度はその【はじめる】に視点を合わせるとゲームが始まりそれと同時に脳裏に少しピリッとした痛みが走・・・・・ったかと思うと突然目の前が太陽を直に見ているような眩い光で真っ白になる。突然の事に思わずびっくりして反射的にヘッドマウントディスプレイを外そうとした瞬間プツンッと意識が途切れ目の前が真っ暗になる。
作品名:チートしかいないカオスな異世界でも平和に暮らしたい。 作家名:IZ-ARIA-