書いてて楽しくなかった
「もうむかつく、嘘つきだ」
彼はどこか屈折している。俺のような人種がそれを正さないといけない、でもそんなことを直接口にしたことはなかった。手に持つ水道管か頭にある悪口が顔面に飛んでくるだけだと知っている。彼は俺の話を聞かない。俺も彼の話を聞かない。聞きたくないし聞いても流してしまうだけだった。きっと興味がない。
「何がだよ」
俺も彼も機嫌が悪くなっている。力が入った指がぶるぶると震えていた。忍ばせている拳銃の出番は今ではない。俺よりきっと弱いくせにわがままな彼が嫌いで、俺は弱くないから別にわがままを言ったって誰も文句は言わない、それでも似ているだとか同じだとかそんなことを考えたことはなかった。大人しくしていればいい。昔のように強くなろうとする彼が気に食わない。大人しく俺のいうことを聞けばいいのに、休戦でも停戦でも好きにしたい。彼は相変わらず拗ねたような表情だった。
「だって君もみんなと同じで僕のこと嫌いなんでしょ」
考えているようなことを直接突き刺された気がして、一瞬ひるんでしまう。
「何それ」
でもやっぱり俺じゃない何かと一緒くたにされてしまうのは俺自身も、彼の言葉で言うならば、むかつく。俺の知らない場所で俺を嘲ることよりもずっと苛々する。
「そのままだよ」
やっぱり駄目だった。きっと引き金をひいて無理にでも言うことを聞かせたくなる。それでも許されると俺は思っている。やめてくれればいいのにと思う。そういうことで次々に俺のプライドが崩れて行きそうになる。彼に俺を好きにさせることなんて許可もしていないのにしたくもなかったのに、ずっと唇をかみしめていた。
「じゃあ君にとって俺は他のみんなと同じなんだね」
自分のことも棚にあげた。でもずっと考えていたそういうことは無かったことにした。俺はたった今傷つけられた。俺は口にしていないけど、彼は口にしてしまった。言っていないことはいくらでも撤回できる。俺がずっと考えていたことを口にしたら、彼は傷ついてくれるだろうか。俺はかわいそうなヒロインにでもなってロシアを困らせようと、泣きそうに見えるだろう角度で目を伏せる。彼が動揺でもしてくれたら、それなら好意を口にしてもいい、とそんなことを考えたら、頬が赤くなった。
2010/05/05
作品名:書いてて楽しくなかった 作家名:ナレ