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遠い夢の空

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リザードンはその背にある翼を振るい、大空へと舞い上がった。
風を切り、雲間を抜け、青い青い空を一面に見る。
空気は随分と冷たいが、炎タイプのリザードンにとっては特別寒さを感じるものではない。
今までずっと前を見据えていた頭を下へと向けると、リザードンが普段暮らしている火山が遥か下に見えた。あまりみることの無い噴火口がぽっかりと口を開けているのがリザードンからは見える。
そこでようやくリザードンは飛んでいるという確かな実感を得られたのだった。


ずっと憧れていた空を、今、自分は自由に飛ぶことが出来ている。
そう思うとあまりに嬉しくて、リザードンは嬉しさのあまり高度を一際高く上げ、そこからくるりと宙返りをしてみせた。
世界が回る。そして




気が付くとリザードンは、地面の上に伏せていた。

ごつごつとした固い地面。かつての火山の噴火で出来たガラス質を多分に含む岩肌は、慣れ親しんでいるとは言え寝心地は決してよくない。
上体を起こして、凝り固まった体を伸ばすかのように動く。
さっきまでの優雅な大空の旅はただの夢だったのか。
残念な気持ちが胸いっぱいに広がり、リザードンは嘆息した。


実を言うと、このリザードンは生まれてこの方一度も空を飛んだことが無かった。
ヒトカゲ、リザードのうちは翼も持たないのだから、飛んだことがなくて当たり前だが、リザードンに進化してからも飛んだことが無い。
否、飛べたためしがないのだ。

進化した直後は飛べないことをまだ慣れていないからと理由をつけて自分自身をごまかした。
事実飛ぼうと思っても翼の動かし方なんかわからなかった。
数ヶ月が過ぎ、さすがに飛べないのはおかしいと思い始めた。
自分より後に進化したやつらが、気づけば誰に教わるでもなしに空を気ままに飛んでいた。
悔しかったが飛んでいるリザードンの翼の動かし方を見、同じようにやってみた。結果としては10cmほど飛べた。……それは飛ぶと言うよりも浮くに近いものだった。

そろそろ進化して半年になる。
リザードンは半ば諦めかけていた。
いくら見よう見真似で飛ぼうとしても、どれだけ練習を積んでも、1mも越えられなかった。
いっそこのまま地上で過ごしてやる、と何度も思った。
空になんかいけなくていいと、何度も思い込んだ。
思って思って思って、そうしてようやく飛べなくてもいいじゃないかと思った矢先が。

今日の夢である。



やはり、自分は飛びたいのか。いや、自分は飛べる。飛べるんだ。
リザードンは気持ちを奮い立たせて、翼を夢で見たように大きく振るわせた。
体が少しずつ浮き上がる。
1m5cm。
新記録だった。




夢に見た空は、まだ、遥かに遠い。
作品名:遠い夢の空 作家名:鏡 鈴