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時をかける女王

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暴君イメージしかない国民にとって、ジールは乱心している様にしか見えないだろう。
たからこそ、ハレーションの効果があるのだろうが…

「おいそこ! 地の民をシェルター(温暖区域)から追い出したな! 後でハレーションを浴びせるから覚えとけよ!」

「地の民をいじめた奴は皆ハレーション地獄を味わわせてやる。」


ボッシュとサラはバリア用の魔法を準備している。

ラヴォスのエネルギーに耐えるには広範囲なバリアでは魔力が持たない。

「サラ様が地の民を守ろうとしている!
「ラヴォス神が世界を破滅させるのは本当なのかもしれない!」
「サラ様だけに任せる訳にはいかない! オレも!「私も!

ラヴォス防衛に必要なエネルギーが貯まる。


〜海底神殿〜

ボッシュ
「兄さん達、また会いましょう!

ハッシュ
「じゃ、時の最果てでな!

ガッシュ
「ヌウとして!

ボッシュは魔神機に突き刺した赤い剣が変化していくのを見ていた…



-



――――――――――――――――――――――――――――

■ラヴォス



-


程なくして海から光の柱が天を貫いた。

光の雨が大地に降り注ぐ。

雪の地面が溶けていく

地響きで立っていられない地の民

魔法使い達は力を加減しながら、器用に浮く

ラヴォスの雨はいつ終わるのか。

砂煙で周りが何も見えなくなっても、衝撃はシールドを通して空気の振動として内部に伝わる。

耳を塞ぎ、蹲る人々。恐怖で怯える。

5分経過
景色は見る影もなく崩壊し、山々の輪郭が変わっていく。
ラヴォスは変化なく、光の攻撃をしている。

10分経過
ラヴォスは変化なく、光の攻撃をしている。
ジールもサラも汗を流す。
体からオーラがでて、長い髪が上になびく。
周りを見る余裕はなく、目を瞑り集中する二人。
山々は蜂の巣の様に穴だらけになる。


更に10分経過

大地はめくりあがり、ジール達のいる足場以外は谷の様なクレーターになった。

高さ10mの高台に東京ドーム1個分の広さのシェルターを建設したかの様に大地に落差が生まれている。

多くの山々は崩れ落ち、そこを住処にしている魔族も多くが死に絶えるだろう。


魔法使い達は疲労を貯め、目が虚ろで視線が定まらない。
魔力は殆ど使い果たして、意識が朦朧としている。
ドーピングの魔法で意識を繋ぎ止める。
だが一人、二人と、次々に力尽きて倒れる。

地の民は無力だった。サラやジール、その他の魔法使いを心配することしかできなかった。

更に10分が経ち、バリアシールドがボロボロになる頃、魔法使いで立っている者は殆ど居なかった。サラもジールも同様に魔力が尽きて倒れた。

ラヴォスの攻撃は未だ収まる気配がない。
このままでは皆が死に絶える。

「お、お母様…このままでは…

「わ、わかって、おるわ…

ラヴォスの攻撃は生命の99%を絶滅させるエネルギーがあった。
ジール達の魔力で防衛しても、絶滅を98%に抑えられるかどうかのレベルでしかない。


サラは思った。この時代に戻ってきたのは偶然ではなく必然なのだと。
ラヴォスゲートに飲み込まれた後、人々はラヴォスの攻撃で死んだ。
未来に王国の歴史を語り継げる者が誰一人居なくなるまで殺されてしまったのだと。

全てはラヴォスを覚醒させる実験から生まれた悲劇。自分達の責任は免れない。

人々は実験を強行した王宮を恨みながら死んでいき、その魂が無念を晴らす為に自分達をここへ導いたのではないかと。罪を悔いて反省するか、さもなくば責任を取ってラヴォスを倒せと。それが無理なら命を駆けて人々を守れと。
みんな死んだのだから、今度はお前が死ぬ番なのだと。

【お前達が私達を殺したのだから、今度は私達がお前達を殺す番だ】

サラ
(お母様…この惨状を招いた私達は途方もなく罪深い…)


ジールはサラが何を考えているかは分からなかった。しかし、きっと物事をわるい方向に考えて絶望しているのだと思っていた。

ジール
(わらわは思うぞ。わらわがラヴォスを呼び覚まさなかったら、ラヴォスはしっかり睡眠時間をとり、未来で目覚める時間が前倒しで早くなるだけじゃろうと。)

ジール
(余計な事は考えずとも、やれることはもう少ない。魔力はもう無いんじゃ。すっからかん。後は運を天に任せるのみぞ…)


ジールはサラを見て笑った。

サラ
(こんな時に笑うなんて、やっぱり私、お母様の心なんて分からないや…)

サラもジールに笑顔を向けた。


ラヴォスの光はバリアを貫き、人々を巻き込んだ。
サラとジールも巻き込みながら…





「まだ、まだ、終っとらんぞ!」
ボッシュは透明魔法を解除した。そばに隠しておいたシルバードを起動し、サラとジールを乗せた。


ダルトンはその光景を見ていた。

「所詮人間はこの程度か…」

ラヴォスの光がダルトンに直撃した。

ダルトンは無傷だった。

ダルトンは何かの呪文を唱えた。

その瞬間、時が止まった。

ダルトンはサラとジールに歩み寄ると手をかざした。

タイムマシに乗りこんだサラとジールの体は光に包まれ、消滅した。

気付くとサラは見慣れた場所にいた。ラヴォスの攻撃に備えてバリアを張る予定の安全地帯にいた。ジールも隣にいてハレーションによる避難誘導が終わったばかりの状態で、まもなくラヴォスが暴走を始める時。

腰が抜けた様にサラは倒れ、、ジールもまた同じ様になった。

サラとジールは同じ気持ちを察した。これから起きる未来を見て絶望していた。

ジール
「い、いまのはどういうことじゃ? わらわは未来を見てきたのか?

サラ
「なぜかは分かりませんが、私達は過去にタイムリープした様です。

未来での記憶を過去に引き継ぐ現象、タイムリープ。
魔学の歴史にもその様な現象の記録は残っていない。
夢が幻か、もしこれが未来視としたら、ラヴォスとは正面から戦えという暗示かもしれないと二人は察した。

ジール
「済まないがボッシュ、後の事は任せた。



〜ラヴォス戦、海底神殿〜

ラヴォスがタイムゲートを発生させ、この時代のサラとジール、ジャキ、三賢者が飲み込まれたのを確認すると、サラは走りラヴォスの眼に触れた。
ラヴォスと意識を繋げ、ラヴォスが眠るように暗示をかける。
ジールはラヴォスからの攻撃に備えてサラと自身にバリアを張る。ラヴォスの光の攻撃で神殿の天井に穴が空き海水の流入に備えた特別仕様のバリアを張る。

バリアを作り終えた瞬間、ジールは自己を見失っていた。
ラヴォスに心を乗っとられていた。

ラヴォスには生物の意識に繋がり操る力があった。その能力はサラと似ているが、サラが繋げられるのはラヴォスだけだった。

ラヴォスがジールに意識を繋いだときラヴォスはジールの心を共有した。
ジールの国民を守りたいという純粋な感情、一度は守りきれず失った悲しみと絶望。
ラヴォスは敵であるジールの心を支配するつもりが、ジールの強い念に支配された。
作品名:時をかける女王 作家名:西中