花
今のような時期に寒さが戻ってくることだよと言えば、何にでも名前がついているんだなあと少し疲れたように溜息を。つまらなかっただろうかと内心焦って次の言葉を手探った。
「何か、不都合があったのかい?」
「んーん、言葉が多いぶんには構わないんだ。ただそうやって増やしたものを、試験に出さないでくれれば」
成程。彼らしい。
「吉井君はあまり小説を読まない方かな? 言葉で状況を説明するとして、意志の伝達に固有名刺などはとても利に適っていると思うけれど。確かに日本語は少々、雅な言い回しが多いけれど、飽きる事がなくて僕は好きだよ」
「そうか、今日は冷えるねって言われるよりちょっと幸せかもしれない」
流石頭がいいね、と言われて悪い気はしない。けれど、恐らく僕と彼の間に圧倒的な変換があったことは確かだ。彼のそれを聞いてとても驚いたのだから間違いはない。
花冷えに怯む様に、彼は少し肩を狭めた。けれどどこか幸せそうにすら、見えた。先程上着をかけてあげた時の頼りなさが嘘のようだ。きっと彼は何ひとつ変わってはいないというのに。
咲き誇る花達を見上げて、強い風に舞う花びらを目で追って。寒さの裏でこんなに綺麗なんだもの、と笑う彼。
視線が合い、どうかした?と尋ねられて初めて彼から目を逸らせずいたことに気付いた。いつでも、いつまでも見ていたい。見ている癖がついていて、いざ彼と話すときはもしかしたら改めなければならないなあとも思う。
少し、幸せになっただけだよ。君の言葉で。
「ああ凄い、花がつくそういうの、結構あるんだね。携帯だけでもこんなにあるや」
彼がいじる液晶を、それとなく覗いた。不自然ではなかったろうか。ぎこちなくは、なかったろうか。
振り絞った勇気、その僅か数センチ隣。
ね、と彼は花が綻ぶ様に笑った。
【花】