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悪魔言詞録

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142.鬼女 ラケシス



 ふむ。姉さまの言うことにも一理はあるかもしれませんわね。

 確かに、糸を紡ぐ姉、長さを取り決める私、それを切り刻む妹。私たち3人の作業の比重は、姉が一番大きいという主張はわかります。そして、それに今まで耳を傾けてこなかった私たちにも、反省すべき点はあるのかもしれません。

 ですが、妹や私にもちゃんと言い分はあるのです。姉がそれを採り上げなかった、という点にも少しは目を向けてほしい、そう思うのは決して間違いではないと思いますわ。

 申し訳ないのですが、姉は作業の上辺だけを見て発言しているような気がします。命を創造するという行為、これは姉の言うとおり非常に重労働です。そして、寿命を取り決めるという私の行為は、創造に比べればはるかに容易に見えるかもしれません。でも、そこに心理的な要素が加わったらどうなるでしょうか。

 召喚主さま、あなたも戦いの渦中に身を置いているのなら、寿命を決めることの恐ろしさがわかるのではないでしょうか。

 玉のようにかわいらしい赤子、素晴らしい能力をもった未来のある若者、誰もが頼りにし、誇りに思う偉大な英雄。永遠を与えたくなるような彼らの生命の終端を、私は自らの手で取り決めなければなりません。
 反対に、この世に生まれてくるべきでないほどの大悪党、いつか大きな惨劇を引き起こす不運な者、その一生に幸せなど一欠片もないほど不幸な人間。彼らを果てしなく長命にしなければならない瞬間もあるのです。

 そんな苦渋に満ちた決断をしなければならない。それもまた私の仕事なのです。

 たしかに姉さまの行為は崇高ですし、重労働だと思います。本当に尊敬すべき姉ですわ。でも、生命を創り出すという行為に罪悪を覚えることは決してあり得ないことです。姉の意見はその点が弱いと思うのです。

 何はともあれ召喚主さま。姉の言をお伝えくださったこと、誠に感謝いたします。近いうちに機会を設けて、3人でとくと話し合いたいと思いますわ。


作品名:悪魔言詞録 作家名:六色塔